ボーズ・オブ・カナダ、8年ぶりに辿り着いたそのサイケデリアの極北。
不在期間に蒔かれた種を一気に吸い込んで、明日まで収穫してしまう狂気。
二度と戻れぬディストピアへ、いざ。
ボーズ・オブ・カナダが 8 年ぶりに帰ってきた。エレクトロニカ、アブストラクト・ヒップホップ、IDM、ドローン、アンビエントなどチルアウトもしくはトリップ・ミュージックを総じた現代のサイケデリック・ミュージックの代名詞として、その長きに渡る不在期間中も無数のテンプレートやチルドレンを生み出し続けたからこそ逆にその存在 感をより確かにしてきたスコットランドの兄弟は最新作に『トゥモローズ・ハーヴェスト』と名付けた。
この 8 年の間にはダブステップの発明があり、ポストを冠してそこからさまざまな音楽が生み出されてきた。ブリアルやジェイムス・ブレイクを筆頭に別掲の深刻系アーティストが徐々に市民権を得ていくことで、ある種「ひとり」で浸る音楽の需要が増えてきているのかもしれない。そんな折り、リリースまでの世界各所にばら撒かれた暗号めいたプロモーションや、渋谷で突如シングル「Reach For The Dead」の PV 解禁を行い(深夜にも関わらず多くのひとが集まった)、今だ世界を翻弄するほどの求心力を持つ彼らは 2013 年に一体どのような音楽を鳴り響かせるのだろうか?
チープなファンファーレのジングル音に猫だましを喰らっている隙に、意識の遥か向こう側から立ち上がる荘厳なサウンドスケープとともにゆっくりと幕が上がる。万華鏡のように舞う電子音や、シネマティックなアナログ・シンセの旋律が美しく、そして退廃的なムードを引きずりながらリスナーから現実の境界線を奪い切った所で、インダストリアルなビートが脈を打ち始める瞬間にはなにものにも代えがたいカタルシスが訪れるだろう。ビートの満ち引きに身体を委ねている合間にもまるで宇宙の片隅をゆっくりと旋回する忘れられた人工衛星にでもなったような強烈なトリップ感に何度も襲われながら、過去最高の隔世感と覚醒感に侵されていく…。ボーズ・オブ・カナダはユートピアを離れ、明らかにディストピアへと向かっている。そして、この時代にはリスナーが自分の「ひとり」としての輪郭をなぞるためにその音楽を必要としていることを、ずっと前から、彼らは知っているのだ。
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※表示のポイント倍率は、ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。