【インタビュー】柳樂光隆(Jazz The New Chapter)選曲・監修『Jazz The New Chapter - The Frontline Of UK Jazz』


【インタビュー】柳樂光隆(Jazz The New Chapter)選曲・監修〜 UKジャズの新しい夜明けを告げるマスターピースを網羅したコンピレーション『Jazz The New Chapter - The Frontline Of UK Jazz』


ゴーゴー・ペンギンやシャバカ・ハッチングスの最新作、ジャイルス・ピーターソンによるUKジャズコンピ『We Out Here』など、2018年も注目のリリースが続くUKジャズシーン。そんなシーンの現在について、昨年9月にHMV限定コンピレーションとしてリリースされた『Jazz The New Chapter -The Frontline Of UK Jazz』でも選曲・監修を手掛けた柳樂光隆氏(Jazz The New Chapter)に伺った。

◇   ◇   ◇

― 今回のコンピレーション『Jazz The New Chapter -The Frontline Of UK Jazz』はどういったコンセプトで選曲したんですか?

UKっぽいものなんですけど、USとは違う感じの要素が強く入っているものを選びました。
例えばゴーゴー・ペンギンがすごく分かりやすいんですけど、UKはクラブシーンやエレクトロニック・ミュージックが盛んで、ドラムンベースとかブロークンビーツとかダブステップみたいな流れがあるじゃないですか。他にもトリップホップがあったり。そういったところから影響を受けて、生演奏でやってるサウンドですね。

USだとヒップホップとかR&Bになっちゃうし、USのジャズの歴史だったり、ゴスペルとかブルースみたいなものと繋がるんだけど、UKはどちらかといえばヨーロッパのクラシックや現代音楽の感じが入っていて、さらにクラブ・ミュージックの延長っていう感じもあるところが面白いと思ったので、USとは違うラインがくっきり出るように選曲をしました。

― 最初に収録が決まったのはゴーゴー・ペンギンですか?

もちろん! コンピレーション自体が完全にゴーゴー・ペンギンありきです。ゴーゴー・ペンギンが登場してから、ヨーロッパのジャズの今まで切れていた歴史のラインが、ようやく繋がった感じがしたんですよ。

それまでにもヨーロッパにはECMのような、永い間ジャズとクラシックと現代音楽が混ざっているようなものをリリースしているレーベルがあって、90年代以降はe.s.t.ってバンドがUSのジャズも視野に入れながら、ヨーロッパで続いていた流れに沿いつつ、エレクトロニック・ミュージックやロックの影響を取り込んで、いろいろチャレンジをしてたんだけど、リーダーのエスビョルン・スヴェンソンが事故で亡くなってから、そのラインが切れてしまっていた感じがあったんです。その喪失感をゴーゴー・ペンギンはじめ若い世代や、ゴンドワナといったレーベルがうまく繋ぎ直していると思うんですよ。

― ゴーゴー・ペンギンの新作『A Humdrum Star』を聴いた印象はどうでした?

音は前作より明らかに厚くなっていますよね。昨年、アメリカでもツアーをしていたから、そういう環境の変化の影響もあるだろうし。あと昨年の東京JAZZのステージを観て感じたのが、ライブ・ステージでの音の鳴らし方が上手くなったこと。ドラムとピアノはすごく綺麗でクリアだけど、ベースは妙に人間っぽいというか、ちょっと泥臭い感じがあって、そのバランスの絶妙さが更にうまく出るようになったというか。演奏と音像と音響が繋がっているのは、レディオヘッドに通じる美意識ですよね。

ノリでライブやりますみたいな雰囲気ではなく、すごく精密にデザインされているというか。お客さんが盛り上がっているから勢いで強引にもっていくみたいな感じがなくて、自身の世界観に沿ってストーリーを紡ぎながら、ストイックにやっている感じもかっこいいんですよ。

― ソロにもあまりモチベーションがないですもんね。

そもそもドラマーのロブ・ターナーなんて、ソロはやりたくないって言っていましたしね。その完成された美意識みたいなのが面白いんだと思います。日々生演奏でやっていくことで、フィジカルで感じたことを修正していく感覚で、ディティールを詰めていくんでしょうね。センチ単位とかミリ単位で作りこんでいって、徐々に進化しているイメージですね。その積み重ねで、アルバムのリリース毎にその精度がすごく上がってるのを感じます。


ゴーゴー・ペンギン


― 一方でUKのジャズ・ミュージシャンは、USと比べてダンス・ミュージックへの意識が強いように思います。

たぶん主戦場が違うというか。USだと演奏する場所がジャズ・クラブだから、その中でどれだけのし上がっていくかみたいな感じですよね。ヴィレッジ・ヴァンガードやブルーノートがその代表で、もうちょっとアンダーグラウンドな感じだとThe 55 Barやスモールズとか。そういう場所で、日々ライブをやることで、認められていく。でもUKだとそもそも大きいジャズ・シーンっていうものがない。下手したら東京よりもジャズ・シーンが小さいかもしれない国でやろうとすると、どうしてもロックやクラブ・ミュージック寄りにして、違うフィールドでも演奏していく必要があるんだと思います。

昔はロック寄りでジャズロックやプログレ寄りになってて、今だとクラブ寄りになるのかと。そういう意味では今はクラブ対応だと、リズムの作り方に対する考え方に差が出てくるんじゃないかな。USだと鑑賞って感じだけど、UKだと踊ってもらうとか、盛り上げるとか、そういう要素が出るんじゃないですかね。

とはいえ、ゴーゴー・ペンギンもそうだし、フローネシスとかサム・クロウとか、このコンピレーションに入れているグループは、USや世界全体のジャズの動きをちゃんと気にしていますね。世界的に進化している技術とかセンスを、きちんと取り入れてるところが良くて、ゴーゴー・ペンギンのリズムは、明らかに世界で起きているリズムの進化が生む面白さと繋がっているところがあります。そういう意味ではUKっぽさもあるけど、世界が繋がっている感じがいいですね。

― ダンス・ミュージックで発達してきたUKだからこそ今のジャズ・シーンがある、ということもあるんですよね。

そうだと思います。あとはそういう新しいジャズの分野も、マーキュリー・プライズといった権威のある賞で普通にノミネートされているのが大きいんじゃないかな。それこそサム・クロウが言っていましたけど、マーキュリー・プライズでマッシヴ・アタックとかロニサイズとかが取った時のインパクトは大きかったそうです。こんなディープな音楽でもそういう賞を取れるんだと。

UKってそれぞれに大きなシーンがないから、マーキュリー・プライズみたいな、指針のような存在が求められている気がします。USは音楽シーン自体がすごく大きくて。あらゆる人たちがニューヨークやLAに集まってきて、シーン全体がコンペティションみたいな状況で、競って勝ち抜いたやつが売れるみたいな図式が多いと思うけど、UKはそういうとこゆるいと思うんですよ。競いあう感じじゃなくて、もうちょっとアマチュアイズムというかDIYというか、なんかこの人センスいいよねって人がまだ未熟でもバッと売れてしまう気がする。その代わり、センスはより求められるというか。そういう部分も魅力なんじゃないですかね。

― マーキュリー・プライズは審査員にアーティストが含まれていますよね?

マムフォード&サンズのマーカス・マムフォードとリアン・ラ・ハヴァスが、審査員にいるんですよ。業界の事情とかで選出されているんではなくて、ちゃんとミュージシャンが入って選んでいるのが興味深いですよね。このコンピにも入れている、ゴーゴー・ペンギンやポルティコ・カルテットダイナソーニール・カウリーもノミネートされているし、シャバカ・ハッチングスが参加してるコメット・イズ・カミングもノミネートされてますね。ちゃんとプレーヤー目線で面白そうな人がフックアップされています。

― 柳樂さんが今UKで注目しているアーティストは誰ですか?

個人的にはフローネシスと、フローネシスのピアニストのイヴォ・ニーマが面白いかなと思っています。イヴォは曲がとにかく良くて、挟間美帆さんがUKでわざわざ見にいって、コンタクトを取ったほど。まず曲としてのクオリティがすごく高い。このコンピに入っているのは「OK Chorale」という曲で、ゴーゴー・ペンギンと通じるような割と硬質な曲です。フローネシスはもともとマーク・ジュリアナがドラムを叩いていたこともあるUKのトリオなんだけど、新作はオーケストラとやっています。彼らの既存の曲を、このままオーケストラに拡張してアレンジしても問題ないのがよくわかる、そのくらいクオリティが高いです。

そうえいばe.s.t.の曲をオーケストラ・アレンジでカヴァーしている「E.S.T. Symphony」という作品もACTってレーベルが出していて、これも素晴らしいんですよ。だからフローネシスもe.s.t.も、彼らの楽曲ってクラシックに置き換えても刺激的に響くくらいのクオリティをもっているんだと思います。


フローネシス


― UKのドラマーにはどういった特徴がありますか?

特にこのコンピに入れた人たちは、やっぱりロックとかクラシックを経由しているし、影響源がテクノとかブロークンビーツとか、ダブステップだからリズムがタイトだし、超ジャストなんですよね。マーク・ジュリアナがやっているような感じの系譜とも言えますね。

― ママール・ハンズやガールズ・イン・エアポートなど、このコンピにはベースレスのバンドが多い印象ですが、何か共通点はありますか?

なんででしょうね?・・・その辺のバンドはライヒとか、ミニマル・ミュージックの感じと近いのはありますが。同じループの音楽のブレイクビーツでも、ドラムンベースでもなくて、どちらかというと現代音楽的で、ある意味ではECM側とも言えるかも。そこに近づくのがUKの面白さなんじゃないかな。USからは、こういう変なジャズが出てこないですよね。あとは、クラシック出身のプレイヤーが多いからテクニック的には突出しているんですよ。楽器のコントロールがすごく上手くて、そもそもの技術が高いっていうのがサウンドの面白さに貢献している気がします。

― 変拍子の使い方が特徴的な楽曲も多くて、1拍を細かく割っていくアメリカよりも中東のジャズに近いように感じました。

インド音楽がそうですよね、割っていくというより積んでいくっていうか。その感じもあるのかも。インドのミュージシャンはヨーロッパでよくライブをやっていたから、インド音楽は身近だったって話をボボ・ステンソンがしていました。あとは、ロマ的な人がヨーロッパにはいて、アフリカやアラブやインドあたりの音楽をヨーロッパ各地に届けていたって話も。だから、USと違ってエキゾチックな部分はありますよね。例えば、ジョン・エリスガールズ・イン・エアポートはオリエンタルな感じがあったりしますよね。

― UKジャズのシーンやコミュニティはどういった分布になっているんでしょうか。

基本的にはロンドンがベースなんですよね。「ゴンドワナ」みたいなレーベルのあるマンチェスターは特殊だけど。ほんとにジャズのシーン自体はすごく小さいみたいだから、たまにネットで動画が上がっていても、すごく地味な小さいライブハウスだったりするんですよ。だからはっきりとしたシーンとか、はっきりとしたコミュニティが分かれてない気がしますね。

それでも、その中にポーラー・ベアやアコースティック・レディランド、インヴィジブルみたいなロックやエクスペリメンタル的な要素のあるバンドがいたり、シネマティック・オーケストラみたいなクラブ寄りの人たちがいたりして、そういうところでジャンルを超えた新たなシーンが切り開かれた部分があったんじゃないでしょうか。

ポーラー・ベア周辺はジャズにこだわらずにジャンルを超えた音楽を作っていて、若干エクスペリメンタルよりな人たちなんだけど、彼らの自由な音楽性を育てたのが、ファイア・コレクティブって言うロンドンの教育機関だったりして、その延長上にサム・クロウやデイヴ・オクムがいたり、ECMと契約したキッド・ダウンズキッド・ダウンズがいたり、USで活躍するイングリッド・ラブロックがいたり。UK屈指のミュージシャンをたくさん生んでるからシーンのようなものと言ってもいいかも。

ちなみにファイア・コレクティブのルーツにはUKのフリージャズ系の鍵盤奏者のジャンゴ・ベイツのバンドのルース・チューブスがあるみたいです。だから、フリージャズやエクスペリメンタル、ロック的な要素は共通点としてあります。

― なるほど。さっきも名前が出たシネマティック・オーケストラに関連のあるアーティストも多いですね。

こっちは完全にクラブ系ですね。リチャード・スペイヴンとかね。ジョン・エリスも。ここには入ってないけどハイジ・ヴォーゲルとか。あとはUSだけど、オースティン・ペラルタもシネマティック・オーケストラでやってましたよね。

彼らはUSのLA側とも繋がりがあって、UKの中でも特殊な例なんだと思います。あそこで活動していたことがきっかけでシーンに出て行ったミュージシャンは多いと思うし、中にいたスチュワート・マッカラムやルーク・フラワーズは今の若手への影響も大きいんですよね。彼らを尊敬している人は多いし、コリーヌ・ベイリー・レイの2017年の作品とかのバックで起用されていたり、UKを代表するミュージシャンがシネマティック・オーケストラ周辺に集まっていると言っていいでしょうね。

― 次は、UKのレーベルについても教えてください。

「エディション」と「ワールウィンド」という二つのレーベルは、結構リリースも多くて、ECMもしくはUSのシーンとすごくリンクしている感じがします。例えば、ウィル・ヴィンソンっていうサックス奏者やジョン・エスクリートってピアニスト、イングリッド・ラヴロックっていうロンドンでも活動していたフリージャズ系のサックス奏者とかがUSで活動していて、そういう人を介してUSのコンテンポラリーなシーンとも繋がっているところが結構面白いなと。

「ワールウィンド」はその辺を掬っていて、USのトッププレイヤーとヨーロッパのプレイヤーを混ぜた作品をリリースしているし、マシュー・スティーブンスウォルター・スミスVみたいなUSのトップ・ミュージシャンの新譜もリリースしている。とりあえず現代ジャズ好きはマストですね。

「エディション」はUSのシーンを視野に入れつつ、UK独自のサウンドをやってる人の作品を出していて、前述のフローネシスやイヴォ・ニーマも出してるし、マーキュリー・プライズにノミネートされたダイナソーもここですね。最近だとロブ・ラフトって若手ギタリストがいて、パット・メセニー的な曲想から、エレクトロニカっぽいのサウンドスケープ、アフリカのリズムとかいろんな要素を盛り込みつつ、そこにコンテンポラリー・ジャズ的に調理していたり。面白いですね。

今回のコンピには収録できなかったんだけど、「ナイム」も面白くて、ポーティスヘッドのリズムセクションがやってるゲット・ザ・ブレッシングとか、シャバカ・ハッチングス率いるソンズ・オブ・コメット、スチュワート・マッカラムのソロとかを出しててここも侮れないですね。ジャズ以外のリリースが多いけど、ポーラー・ベア―周辺とか出してる「リーフ」もエクスペリメンタルな感じのサウンドが多くて、かっこいいですよ。


ダイナソー


― 今年は、ジャイルス・ピーターソンによる、UKジャズを集めた『We Out Here』がリリースされました。『Jazz The New Chapter - The Frontline of UK Jazz』とは重なっていなかったのが面白かったですね。違いはどういうところだと思いますか?

『We Out Here』はずばりクラブジャズじゃないですかね。コートニー・パインとかゲイリー・クロスビー周辺のUKで80〜90年代に活動していたミュージシャンたちの系譜の若手のコミュニティを集めたのが『We Out Here』なんですけど、つまりコートニーやゲイリーがやっていたトゥモローズ・ウォーリアーズってUKのカリビアンやアフリカンたちのための教育組織の教え子たちです。

そもそもコートニーやゲイリーって、アシッドジャズとかドラムンベースとかのUKのクラブシーンで演奏していたり、UKのレゲエシーンで演奏していた人たちなんですよね。その系譜って考えるとすごく分かりやすいですね。彼らはUKのカリビアンやアフリカンがやっていた音楽を継承しつつ、UKのクラブシーン経由の音楽が入っているという感じでしょうか。だからレゲエっぽい要素が入った曲もかなり目につきますよね。その辺はUK独自の特徴だと思います。

一方で、『We Out Here』はかなりUSのモダン・ジャズっぽい要素が多いのも特徴ですよね。演奏的に今のUSというよりは、50-70年代のUSジャズみたいなものに憧れがある感じがすごくあるのが面白いなって。それって、90年代以降のアシッド・ジャズやクラブジャズもそうだったじゃないですか。同時代のUSにはジョシュア・レッドマンとかブラッド・メルドーがいたわけだけど、そこよりは50〜70年代のソウルジャズとか、スピリチュアル・ジャズに対して強烈な憧れがあった。そういう部分と同じ感じがします。

ファラオ・サンダースやアリス・コルトレーンみたいな、スピリチュアル・ジャズっぽいところも多いのはガリアーノやトゥ・バンクス・オブ・フォーをアップデートした感じで、そこはジャイルス・ピーターソンの趣味とも合致するし、UKのクラブジャズっぽいと思います。『We Out Here』以外でも、ゴンドワナのレーベル・オーナーのマシュー・ハルサルも同じラインだと思います。


マシュー・ハルサル


『We Out Here』のクラブジャズっぽさって、イタリアの二コラ・コンテの感性に近いと思うんですよね。二コラの『Free Souls』『Love & Revolution』あたりの感じって、根底にあるのはUSのブラック・ジャズへの強烈な憧れなんだけど、同時代のUSには目配せはしてないんです。ホセ・ジェイムズグレゴリー・ポーターを起用するんだけど、オールドスクールなアフロアメリカンのジャズヴォーカリストとして起用する。その感じって、クラブ経由のUKのジャズにはかなりあって、ファラオ・サンダースみたいなスタイルのスピリチュアル・ジャズを思いっきりアフロセントリックにやる感じと同じで、それがクラブジャズの作法かなって思ったりしますね。最近、ニコラ・コンテは新作『Let Your Light Shine On』をリリースしましたけど、今回もスピリチュアルジャズやアフロフューチャリズム的なものがテーマだし、南アフリカで現地のミュージシャンとセッションしたりしてて、その路線を推し進めてるんですけど、今のUKの『We Out Here』周辺と呼応してますよね。

ニコラ・コンテもヨーロッパ経由でインパルスと契約してましたけど、『We Out Here』の中心人物のシャバカ・ハッチングスがインパルスと契約したのも、ヨーロッパでどう認識されているかって部分を表している気がします。ユビキティやソウルジャズといったUKのレーベルが出していたDJ向けのジャズ系のコンピレーションを聴くとその辺の感じかわかるかと思います。

あと、ジャイルスってもともとジャズDJだったころもアフロキューバンとかにこだわりがあったし、それ以降もラテンへのこだわりってすごいですよね。今もダイメ・アロセナを自身のレーベルでリリースしていたり。クラブジャズにとって、ラテン要素ってすごく大きい要素だと思うんだけど、そこもUKカリビアンがラテンのリズムをプレイする楽曲が多く見られる『We Out Here』は受け継いでいる気がしますね。いろんな意味でクラブジャズの最新形って感じがします。

逆に『The Frontline of UK Jazz』にはUSっぽさはないけど、レディオヘッドっぽさって部分ではUSの現代ジャズとも繋がってる気がします。ブラッド・メルドーやクリスチャン・スコットと共通する部分はありますね。あとはビョークとか。USのアフロアメリカンへの憧れの感じが薄いのは特徴だと思うし、そこはECMとかACTとかヨーロッパのジャズの系譜と繋がるところかなって思いますね。

― 「We Out Here」はJazz Re:freshedというコミュニティのアーティストが中心になっています。彼らはブロークンビーツを生で演奏するところから始まっているようですね。

リチャード・スペイヴンとかはそうですよね、彼はブロークンビーツを生演奏で叩きたかったって言ってました。その辺はクリス・デイヴとかとモチベーションは近い。イギリスはブロークンビーツで、アメリカはJ.ディラで、ということなんでしょうね。で、リチャード自身はJazz Re:freshedのパーティーやセッションでよく演奏していたと言ってました。

前に「UKで一番面白いジャムセッションやってるライブハウスを教えて」って聞いたら、「Jazz Re:freshedってミュージシャンとDJが一緒にやれる場所があって、そこ一択というか、そこしかないと言っていいと思うよ」って言ってましたよ。そこがレーベルもやっててリチャードはそこから配信で作品もリリースしている。いろんな意味でクラブシーンと演奏家を繋ぐ場所だったみたいです。


リチャード・スペイヴン


そういう場所から、モーゼス・ボイドとか、カマール・ウィリアムスとかみたいな、リチャード・スペイヴンのフォロワーじゃないけど、人力ドラムンベース・タイプのドラマーが出てきてたりしてるし、ジョー・アーモン・ジョーンズとか、マックスウェル・オーウェンとか、ヘンリー・ウーみたいな楽器の演奏もするビートメイカーみたいな人もいて、彼らはUKクラブジャズ新世代って感じがしますね。

松浦俊夫さんが『We Out Here』のミュージシャンと録音したToshio Matsuura Groupの『LOVEPLAYDANCE』はUKジャズが持っていたUK独自のドラムンベースやブロークンビーツとかを経由したクラブジャズ感覚と、USの50-70年代に憧れる感じの両方が入ってる気がします。この音楽監督のトム・スキナーもハロー・スキニーってエレクトロニカの名義も使ってる人で、ビートが作れるドラマーのひとりですね。

― 「We Out Here」に関して、注目アーティストはいますか?

看板はシャバカ・ハッチングスですよね。バルバドス出身のカリブ系サックス奏者で、ジャイルスのレーベルからシャバカ&ザ・アンセスターズ名義で出したアルバムは自分以外は全員南アフリカのジャズ・ミュージシャンで、今度インパルスから出すソンズ・オブ・コメット名義はチューバが入っててラテンやレゲエの要素が入ったブラスバンドっぽいサウンドと、いろいろ個性的なんですよ。音楽的にはアフリカとカリブの感じが両方入ってて、まさにコートニーやゲイリーの教え子って感じですよね。UKからしか生まれない独自の音楽って感じがします。


シャバカ・ハッチングス


ちなみに今、UKでは、アフリカ系のミュージシャンの影響力が強くなっていて、その象徴って感じでJ・ハスっていうアフリカ系のラッパーがメインストリームに出てきてますけど、UK経由でウィズキッドってアフリカ人がドレイクのアルバムに入っていたり、ケンドリック・ラマーの「Black Panther」にも南アフリカのラッパーとか入ってて、世界的にアフリカ系のミュージシャンの注目度が高いんです。

UKではアフロバッシュメントとか、アフロビーツって呼ばれてるムーブメントって言うか、新しいジャンルみたいなのが出てきてたりして。南アフリカのミュージシャンとのコネクションが強くて、その影響も取り入れてるシャバカ・ハッチングスはそういう流れと共振している部分もある気がしますね。

これからシャバカの人気が出たら、ゴーゴー・ペンギンなんかとは、また別のラインが盛できるかもですね。UKのクラブジャズやアシッドジャズって、日本のリスナーと相性がよくて、昔から世界の中でも日本では特に人気があるんです。「We Out Here」系は昔からのクラブジャズ・リスナーにもウケると思うし、日本で人気が出る可能性はあると思いますね。



聞き手・文●西井海(HMV)


The Frontline Of UK Jazz


収録曲
01. Mansions Of Millions Of Years / Mammal Hands
02. Kamaloka / GoGo Penguin
03. Harvest Moon / Emilia Martensson
04. Ruins / Portico Quartet
05. Letters Of The Past / Richard Spaven
06. Seven Of Swords / Native Dancer
07. Living, Breathing / Dinosaur
08. Aeiki / Girls in Airports
09. Garden of Love / Neil Cowley Trio
10. Unidentical Twins / John Ellis
11. Strata / Ivo Neame
12. OK Chorale / Phronesis
13. Gaia / Sam Crowe Group
14. From The Morning/Know / Smart's Black Eyed Dog

柳樂光隆(なぎら みつたか)

ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。1979年島根県出雲生まれ。現在進行形のジャズ・ガイド・ブック「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに執筆。ほか、『MILES:Reimagined』、21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本「Jazz The New Chapter」シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。

シャバカ・ハッチングスから始める現代UKジャズ概論:サンズ・オブ・ケメット『Your Queen Is a Reptile』another liner notes《Jazz The New Chapter for Web》

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