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「ベルリン・フィル・ラウンジ」第12号:パユ、エリオット・カーターを語る

Thursday, December 10th 2009

ドイツ銀行 ベルリン・フィル
ベルリン・フィル&HMV提携サイト
 ベルリン・フィル関係ニュース

ベルリン・フィル、夏季ザルツブルク音楽祭からのレジデンス要請を辞退
 ベルリン・フィルでは、夏のザルツブルク音楽祭からのレジデンス要請を辞退する決断を下しました。ザルツブルク音楽祭は、オペラのプロダクションをザルツブルク・イースター音楽祭と共同制作する構想を温めていますが、ベルリン・フィルは復活祭期間と同様、このオペラ・プロダクションに参加することを求められていました。しかし8月下旬のシーズン開始と団員の休暇期間をかんがみた結果、やむなく辞退することになりました(写真:© Salzburger Festspiele Archiv)。

2回のラトルの定期が、アーカイブにアップ!
 10月後半から11月初旬にかけて行われたラトル指揮の定期演奏会が、デジタル・コンサートホール(アーカイブ)にアップされました。まず10月30〜31日の回では、シェーンベルクの室内交響曲第1番とブラームスの第2交響曲、続く11月5〜7日の回では、シェーンベルクの《期待》とブラームスのピアノ四重奏曲第1番がメイン・プログラムとなっています。なかでも聴きものは、ラトルとしては意外なほどに肩の力の抜けた「ブラ2」と、イヴリン・ヘルリツィウスの鬼気迫る表現が光る《期待》です。ラトルの昔からのレパートリーであるピアノ協奏曲第1番における独特のユーモアも、傾聴を誘います。

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10月31日の演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!
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デジタル・コンサートホールのチケットをクリスマス・プレゼントに!デジタル・コンサートホールのチケットをクリスマス・プレゼントに!
 ご家族に、お友達に、パートナーに…。デジタル・コンサートホールのチケットが、プレゼント用にダウンロードできるようになりました。このサービスは、公式ウェブ上でチケットを購入すると、バウチャーがPDFファイルとして保存できるというものです。チケットをご家庭で印刷ないしメールに添付して、お贈りいただけます。ご購入いただけるのは、シーズン会員券、30日券、1回券の3種類。右はキャンペーンのイメージ映像です。

ジルベスター・コンサートに関する変動と今後の予定
 これまでZDFドイツ第2放送で中継されていたジルベスター・コンサートが、今年よりARDドイツ第1放送で中継されることになりました。今年のプログラムは、ラトル指揮ラン・ラン独奏のロシア・プログラムですが、来年末には小澤征爾とエリーナ・ガランチャが登場。また2011年の回では、ラトルの指揮下でヨーヨー・マが演奏する予定です。これらはすべて、ARDにより世界的に放映されることになっています。

過去のベルリン・フィルの映像がDVDで発売
 90年代を中心とするベルリン・フィルの過去のアーカイヴ映像が、DVDクラシック・レーベルのメディチ・アーツより発売されることになりました。これはテレビ放映用に収録されたもので、そのなかの多くがBS朝日で放送されています。最初のリリースは、ラトル指揮のラモー《ボレアド》組曲、ベルリオーズ《幻想交響曲》の予定です(1993年収録)。

 次回のデジタル・コンサートホール演奏会

ティーレマン指揮の《ペレアスとメリザンド》で、後期ロマン派の粋を味わう
(日本時間12月13日早朝4時)
 近年ドイツで特に人気を獲得しているクリスティアン・ティーレマンが、ベルリン・フィルに再び客演します。今回のプログラムは、前半がブラームスのオーケストラ伴奏付き合唱曲集と、たいへん渋い選曲。「運命」がキーワードとなった諸作品は、暗く幽玄な音調を感じさせます。《運命の歌》は、アバドの勇退演奏会における名演が記憶されますが、ドイツものを得意とするティーレマンだけに、今回の成果にも期待が掛かります。
 一方《ペレアスとメリザンド》は、シェーンベルクが無調に転換する以前の作品で、後期ロマン派的な官能性が特徴的。ティーレマンにはまさに打ってつけのレパートリーであり、今シーズンのハイライトのひとつとなることでしょう。

【演奏曲目】
ブラームス:オーケストラ伴奏付き合唱曲集
《哀悼の歌》
《運命の女神たちの歌》
《運命の歌》
シェーンベルク:交響詩《ペレアスとメリザンド》

合唱:ベルリン放送合唱団(合唱指揮:ロビン・グリットン)
指揮:クリスティアン・ティーレマン


放送日時:12月13日(日)午前4時(日本時間・生中継)

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 アーティスト・インタビュー

エマニュエル・パユ
「カーターの作品には、すべてをシリアスに捉えすぎないという人生の知恵が感じられます」

聞き手:リュディア・リリング
定期演奏会(2009年6月11〜13日)

【演奏曲目】
R・シュトラウス:交響詩《ドン・ファン》
交響詩《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》
カーター:フルート協奏曲
ピアノとオーケストラのためのダイアローグ

フルート:エマニュエル・パユ
ピアノ:ニコラス・ホッジズ
指揮:ダニエル・バレンボイム


 今年6月に、エリオット・カーターのフルート協奏曲をドイツ初演したエマニュエル・パユが、その音楽について語ります。パユは作品の構造や意味を分かりやすく、明確に説明しており、耳をそば立たせられる内容。センスのよいユーモアを交えながら、真摯に語る彼の姿は、音楽家としての器の大きさを感じさせます。インタビューの言語はドイツ語ですが、こなれた語り口も、パユがベルリンに深く根を下ろしていること暗示しています。

リリング 「カーターは、これまでフルートのための協奏曲を書くことをためらっていました。というのはフルートには、彼が必要とする“鋭いアタックが欠けているため”だそうです。しかしついに作品を完成させ、エマニュエル・パユが2008年にエルサレムの室内楽フェスティヴァルで初演しました。パユさん、この作品について説明していただけますか」

パユ 「カーターは、この作品で過去100年間に書かれたフルートの音楽を総括し、さらに未来に向かって問うような作品を書いています。それを演奏することは、もちろん演奏家にとってはたいへんなチャレンジです。スコアを広げると、信じがたいような世界が広がっています。というのはまずカーターは、フルーティストでないにも関わらず、フルーティスト自身の想像力を越えるような音楽を書いているからです。しかしそれよりも驚くべきなのは、カーターがソリストとオーケストラのディアローグを構築している点でしょう。曲では、まずソロ・フルートが、ひとつのフレーズをオーケストラに向かって投げ出します。するとそれは、オーケストラのいくつかの楽器群によって応答されるのです。そこにソロとオーケストラの対話が生じる。オーケストラの各グループの間でも、そうしたボールの投げあいが続きます。しかしソロが特別なのは、フルートが吹く点描的な個々の音が、音楽のベースに残り、楽曲の全体に影響を及ぼすからです。つまりフルートの放った音をもとにしてハーモニーが形成され、このハーモニーから中間部の素晴らしいソロ・カンティレーナが引き出されます。この作品はコンチェルトという名前がついていますが、私はノットゥルノ(夜想曲)と呼びたいと思っています。もっとも形式的には、明確にコンチェルトの形式に則っていて、4つの部分にはっきりと分類されるのですが。最初は今言ったボールの投げ合い、第2部はカンティレーナ、第3部はソロ・フルートがひとりで始めるカデンツァ的な部分で、後にパーカッションを相手にディアローグが行われます。第4部はヴィルトゥオーゾなフィナーレで、ここでは弦楽器を中心に技巧的なパッセージが聴かれます」

リリング 「カーターは、ストラヴィンスキーから複雑なリズムを学び、何十年にもわたってリズムの構造を究めてきました。それはこのコンチェルトでは、どのように表われているでしょうか」

パユ 「この作品は、彼の以前の曲(以前とは言っても70〜80年代の作品のことで、彼はすでに70歳だったわけですが)と比べれば、リズム的にはそれほど難しくありません。100歳にもなると(注:カーターは昨年、100歳を迎えた)、そうした難しさ自体よりも本質的なところに意識を集中させるのでしょう。彼の作品には、《硬い精神・柔らかな精神》というフルートとクラリネットの二重奏がありますが、これなど本当に複雑な曲です。ピエール・ブーレーズの60歳の誕生日のために書かれたものですが、そこではふたつの楽器が重なって演奏してはならない、という構造になっています。例えばひとつの小節にはクラリネットの音が5つ、フルートの音が4つという感じで書かれている。両方の楽器がものすごいテンポで絡み合うのですけれども、もしお客さんが楽器が重なっているのを聴いたとすれば、それは演奏ミスなのです(笑)。モーツァルトやベートーヴェンでは、一緒にぴたりと演奏していないと失敗だとすぐ分かるわけですが、この場合はその逆。合っていると間違いだというのは、面白い視点ですね。しかしそうした側面は、今回のコンチェルトにはまったくありません。ピアノ協奏曲《ダイアローグ》とこの曲では、誰が中心的な役割を演ずるのかは、明確に規定されています。つまりソロ・パートが、オーケストラと対話を繰り返すというのが基本構造です。具体的には、ソロとオーケストラが同じ素材(音列)を用いてそれを発展・展開してゆきます。そこではリズムの多様化ということも、当然現われてきますね。ちなみにその過程で、カーターは若い世代の作曲家がよく使うフルートの「効果」をまったく用いていません。現代音楽では、一般的な演奏音だけでなく、舌を使ってピッツィカートのように鳴らしたり、楽器に息を吹き込んだりするなど、様々な演奏効果があります。それは楽音というよりは、雑音に近い要素もあるのですが、カーターは、そうした種類の音をまったく使っていないのです。最初の部分では、音は非常に錯綜していて、ばらばらな印象を与えるのですが、段々カオスが“音楽語法”へと形を整えてゆく、という風情が感じられます。その後に登場するのが、新印象主義的な語法です。これはラヴェルやドビュッシーによって作られたフルートの響きを聴かせるもので、フルートにとってはもちろん見せ所ですね」

リリング 「カーターは1990年に《瞑想的な軽やかさ》というたいへん美しい名前の作品を書いています。彼の過去20年ほどの作品は、この言葉に集約されるような気がしますが、今回演奏する作品にも“瞑想的な軽やかさ”は関係していますか」

パユ 「“瞑想的”と“軽やかさ”の両方は、これらの作品を理解するための鍵となると思います。それは演奏家にとっても同じです。スコアには“ジョコーゾ(嬉々として)”とか“レジェリッシモ(きわめて軽やかに)”とかの表情記号がたくさん出てきます。それは実際、人生の年輪から来る豊かさ、軽やかさと関係しているのでしょうね。すべてをシリアスに捉えすぎない、という知恵でしょうか。私も比較的年寄りと言える年齢になってきましたが(笑)、それにふさわしい表現ができるように心がけたいと思っています」

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 ベルリン・フィル演奏会批評(現地新聞抜粋)

バレンボイムの珍しいショパン・ピアノ協奏曲第1&2番は、「時が止まるよう」
定期演奏会(2009年10月2〜4日)

【演奏曲目】
シマノフスキ:演奏会用序曲ホ長調
ショパン:ピアノ協奏曲第2番
ルトスラフスキ:弦楽のための序曲
ショパン:ピアノ協奏曲第1番
ショパン:ワルツ第6番《子犬のワルツ》(アンコール)
ショパン:夜想曲第8番作品27の2(アンコール)

ピアノ:ダニエル・バレンボイム
指揮:アッシャー・フィッシュ


 今秋の演奏会で、最も印象的だったもののひとつが、バレンボイムのショパン・アーベントでしょう。生中継こそ本人の希望でキャンセルになりましたが、アーカイヴにアップされた演奏は、近年の彼のピアノ演奏のなかでも絶品と呼ぶにふさわしいものです。自由なルバートとアゴーギクが光る個性的な解釈は、楽譜の細部を照らし出す説得力に溢れています。ベルリンの各紙は揃って絶賛。一音一音に意味を感じさせる繊細さ、濃密さに圧倒されたという論調が並んでいます。なおアンコールで演奏された夜想曲第8番も、ポエジーに溢れた巨匠的名演でした。

「ダニエル・バレンボイムは完璧であることにこだわらない。それよりも彼は、一回限りの瞬間の魔法に賭ける。実際彼は、その勝負に何度も勝ってきた。このショパン・プログラムにおいても、掛け替えのない至福の瞬間は数多く起こったのである。(略)時が止まるような瞬間、異次元が開くような瞬間。ヘ短調とホ短調のコンチェルトで、彼はヤーヌス(注:ふたつの顔を持ったローマ神)を思わせる色彩の魔術師となった。つまり巨匠的なグランド・マナーを見せる一方、若者のように大胆で自由な演奏を行ったのである。ショパンに経験があるとは言えないベルリン・フィルは、彼の変幻自在のテンポに合わせるのが精一杯、といった調子。それはバレンボイムの関心が、かっちりとしたリズムや形式よりも、個性的なルバートや歌にあったからである。演奏会の頂点は、“静寂のなかの夜歌”とでも呼ぶべき第2協奏曲の第2楽章だったが、そこでは憧憬と幸福が夢見るように合一していた(2009年10月5日付け『ベルリナー・モルゲンポスト』フェリックス・シュテファン)」

「この晩の主役は、ともかくショパンであり、バレンボイムであった。ヘ短調コンチェルトの冒頭楽章からして、バレンボイムのショパン解釈は明確である。すなわち個人的な感情の横溢であり、心の内奥を披瀝する舞台である。詩的な香りに溢れたラルゲットの後、フィナーレのホルンが高らかに鳴る頃には、音楽はショパンの個人的な信条(=故郷を象徴するマズルカ)へと変化する。その際バレンボイムは、無意味な技巧の披瀝に陥ることは決してなかったのである。(ホ短調コンチェルトの第2楽章において)彼は、主題をその場で生成させるような印象を与えた。紡ぎだされる音はまったく自然で、淀みのない泉のようであった。この甘美な音色の前では、終演後の聴衆のスタンディング・オヴェーションも当然と言わなければならない(10月4日付け『ターゲスシュピーゲル』ダニエル・ウィクスフォルト)」

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 ドイツ発最新音楽ニュース

本コーナーでは、ドイツおよび欧米の音楽シーンから、最新の情報をお届けします。

ベートーヴェンの手紙が記録的高値で落札
 バーゼルで行われた古文書のオークションで、ベートーヴェンの手紙が50万スイス・フラン(約4,370万円)という高値で落札された。これはベートーヴェンが1823年に書いた遺書で、甥のカールに財産を相続する意向が書かれている。買い手はドイツの個人コレクター。競売を行ったベルリンの古文書商J・A・シュターガルト社によると、今回の落札値はベートーヴェンの手紙としては最高値に当たるという(競売前の推定価格は18万スイス・フラン)。ちなみに該当の遺書は、通称「第2の遺書」と呼ばれるもので、ベートーヴェンの最後の遺言ではない(写真:©J. A. Stargardt Autographenhandlung/Randall Cook)。

バイエルン国立歌劇場《愛の妙薬》新演出は、チャップリン風?
 11月30日にプレミエを向かえたバイエルン国立歌劇場の《愛の妙薬》新演出は、総じて成功の模様である。ダーヴィット・ベッシュの演出は、ネモリーノをチャップリン風の道化として描き、<人知れぬ涙>は街灯の柱の上で歌われる。歌手ではとりわけネモリーノのジュゼッペ・フィリアノーティが圧倒的喝采を集め、ミュンヘンにおけるスターの地位を確立した。アディーナのニーノ・マカイーゼも好評。ミュンヘン・フィルでの演奏が高い評価を得ているユライ・ヴァルクハの指揮には、批判の声も聞かれる。

チューリヒ歌劇場でヴェルディ《海賊》がスイス初演
 11月22日、チューリヒ歌劇場でヴェルディ初期の歌劇《海賊》がスイス初演された。上演は概して好評で、『チューリヒ新報』は、「必ずしもイタリア的とは言えないが、手堅い公演」と評している。海賊コッラード役のヴィットーリオ・グリゴロは、やや一本調子ながら輝かしいテノールで成功。エレーナ・モシュク、カルメン・ジャンナッターシオの両ソプラノも、ブラボーを浴びている。ダミアーノ・ミキエレットのモダンな演出、エイヴィント・グルベルク・イェンセンの正確な指揮も、緻密な仕事ぶりが評価された。

コチシュの《モーゼとアロン》補筆版、盗まれる
 ゾルターン・コチシュ補筆によるシェーンベルク《モーゼとアロン》のスコアが入ったパソコンが、本人の自宅から盗まれた。コチシュは、未完に終わった同オペラの第3幕を補筆し、来年1月16日に世界初演を予定していたという。この上演は、目下先行きが危ぶまれているところ。コチシュは「スコアを作り直すか、コンピューターが見つけるかして、初演を実現したい」と語っている。


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