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『おそいひと』 柴田剛監督 インタビュー

Thursday, May 6th 2010

interview
柴田剛


『おそいひと』は重度の肢体不自由者が実名の主人公で登場し、健常者を殺すという強行に出るお話のため、2004年 東京フィルメックスのプレミア上映から物議を醸し、日本での上映がいきなり危機に晒された。その後、海外映画祭での上映など、3年の期間を経て、2007年12月から日本での凱旋上映となり、東京だけでも約4ヶ月に渡る超ロングランヒットとなった作品である。その本作がこの度、特典映像付きでDVD化される。特典映像の中の1つとして収録されている短編作品『夢の巷』(エレカシのタイトルから取られた)は、『おそいひと』の完成直後、遊びに行った様々な場所でカメラを回していた、ただひたすら遊んでるだけの本当にたのしい、金土日の毎日が夏休みのようだった時期に撮っていたものを22分にまとめた映像日記のようで・・・そんなDVDならではのおたのしみも含め、柴田監督には取り巻く当時の環境や心境、そして、今に至る経緯などをはじめ、お話を伺った。world's end girlfriendの音楽が漂う、全編ほぼモノクロのあの映像群をDVDで体験し、感情を想起された方はぜひ、シマフィルム京都オフィスに感想を寄せて頂きたい(本当に!)。最新作『堀川中立売』の公開も控える柴田監督は、今までお会いしたどの監督よりも音楽好きで、Tシャツとパーカーとタバコと、そして、ピースが似合う監督でした。(この扇風機と会長室という扉に深い意味はありません。合掌) INTERVIEW and TEXT and PHOTO: 長澤玲美

「その手のキワモノをやりたい人なのか」っていうような最初のイメージが『おそいひと』にもやっぱり付いていて。


--- 本日はよろしくお願いします。

柴田剛(以下、柴田) よろしくお願いします。

--- 『おそいひと』の初お披露目は、第5回東京フィルメックス/TOKYO FILMeX2004のプレミア上映だったそうですが、以来、センセーショナルなテーマということで、日本映画界から封殺され続けてきたとありました。

柴田 シカト気味になりそうになってましたね。当時、映画祭にどんどん出るっていう風なことは想定してなかったんですけど、正直、状況に面食らってたんですよね。

--- 日本の状況と比べて、海外での映画祭では高い評価があったそうですね?

柴田 海外の映画祭も東京フィルメックスと同じで、総スカンってことではなくて、賛否両論がありましたね。ただ、障害者に対しての映画っていうことには進んでるからか、一方的な感想ではなく、質問する側が作ったこっち側に対して「差別についてどう思うか」っていうような、日本よりももっと突っ込んだフェアな言葉で質問してくれたりしたんで、「ああ、寛容的だな」と。でも、賛否両論っていうのはどこの国でも一緒でしたね。

--- 日本ですと、そういった質問にもならなかったという感じだったんですか?

柴田 やはり・・・何と言うか、質問じゃなくて、ものすごいぶつける感想っていうのが多かったんですよね。パフォーマンス的なお客さんと言いますか。なので、そういうことが多くて、そういう場になってしまうと次に進めない状況になるわけですよね。それがちょっとくやしかったかな。東京フィルメックスはやはり、日本の大きな国際映画祭っていう位置付けなんで映画の見識の高いお客さんがいっぱいいるところじゃないですか?だから僕は単純にそこで面食らってるんですよね。『スターウォーズ』とか好きな人間なんで(笑)。『おそいひと』を作る目線の先にあったのが「距離を浮き彫りにさせる」っていうことだったんで、お客さんとキャッチボールをしたかったところがあったんですけど、キャッチ出来ないボールをぱんぱん投げられた感じでしたね。でも、がんばってキャッチして、無理矢理投げ返したんですけど(笑)。

--- そのような状況で3年という月日を経て、2007年12月に日本で凱旋上映になりましたが、その間の経緯というのは?

柴田 僕自身が言ったら、こういう映画を携えて、2004年時点でぽっと出だし、4年前の2000年に原爆に影響を受けた5歳の子供が60歳まで成長して、その間に原爆に影響を受けた音楽に目覚めていくっていう映画『NN-891102』を撮ってはいるんですけど・・・『NN-891102』っていうのは、長崎の8月9日11時2分を差してて、長崎ノイズ、長崎ナイトメアとかそういうコードネームみたいにしたんですよね。ジョージ・ルーカスの『THX-1138』っていうSF映画が好きなんで、それをパクったんです(笑)。

そういう映画を撮ってるから、何か「その手のキワモノをやりたい人なのか」っていうような最初のイメージが『おそいひと』にもやっぱり付いていて、しかもそれが本当の重度の肢体不自由者が実名で主人公で登場する。で、健常者を殺すという強行に出るというお話で、どう扱えばいいのか、どう映画を上映すればいいかわからないっていう感じだったんですよね。共にリスクを共有しようっていう動きがなかなか生まれない・・・生れてなかった。でも、逆にはっきり言うと、2004年に東京フィルメックスで上映させてもらって、海外のサーキットに出れたっていうことは、「この映画の味方を増やしていくことだ」っていうことに途中で気付いたんですね。だから、日本で上映される前のその3年間のブランクは、本当に味方を増やす旅というか。よりブレがなく、ただでさえ誤解が伴う内容だし、そういうことをやってきた監督だしっていうのをもっと的確にお客さんの下に届ける時のために、僕ないし映画に対しての見方を3年間ゆっくり作っていけたという。その結果、最後はお客さんが味方に付いてくれたんで、「ああ、よかったなあ」って。マイペース(笑)、それこそ、「おそいひと」ですっていう(笑)。

--- タイトルにもかかるような(笑)。

柴田 そうそう(笑)。『おそいひと』っていうタイトルは、もう見るからに動くのがおそい、まさにおそい人というところなので。


おそいひと


--- 賛否両論が強くあれば、絶賛の声も多いですよね?

柴田 賛否両論ってそういうものですよね。批判と絶賛は、実は同じことを差している。映画だから読み込むものではなくて、感じるものだという。僕から見ると『おそいひと』は人と人との距離を浮き彫りにするもの。それに対して、好きっていう人とそうすることを嫌いとする人、それがすごい伝わってきて。

当時、僕は2004年の段階でそれを「距離」とは言えずに「差別」って言ってたんですね。自分の中でこの映画は、自分の中に持っている差別を露呈して形にしたっていう差別意識があったんですよ。だから、「それが今も少なからずある。その上で映画を作りました」っていう言い方をしたんですけど、いろいろそうこうしているうちに、「それは差別っていう言い方じゃなくて、区別って言うんだよ」っていうことを教えてくれる人もいましたし。でも、僕は差別と区別は違うかなって。企画・撮影・編集の段階から、区別じゃなくて、もう露骨に差別の意識を持ってたんですね。だから、それにはなるべく目を背けないで僕の持ち物としてそのまま生かしていく。『おそいひと』はそういう風にきましたね。やっぱり、こうなってしまうと好きと嫌い、賛否両論・・・批判の対象になるし、それは絶賛の対象にもなるし。

--- 反応が分かれることに対しては、うれしさもありますか?

柴田 手応えですね。 やっぱり、なかったことにされるのが一番虚しい。要は反応してくれているという。それがうれしいですよね。「そうなり得る映画を作れたんだ。やってよかったな」っていう。

--- 『おそいひと』を撮るきっかけになったのは、1999年の春に当時、柴田さんは芸術集団“DMT”に加入されていたそうで、その中のメンバーで阪神障害者解放センターの職員だった仲悟志さんの上司だったのが本作の主演、住田雅清さんだったということなんですよね?

柴田 そうなんですよ。仲さんは在学時代、だいぶ上の先輩だったんですけど、劇団をやってまして。で、仕事で阪神障害者解放センターのヘルパーをやってたんです。障害者達が作品を作っている作業場と「遊雲(あそびぐも)」っていうギャラリースペースのオーナー、雇われ店長を仲さんがしてて、その代表が住田雅清さんだったんです。二人はよく会って、酒飲んでしゃべってたみたいなんですけど、その時に映画の話になって、「世の中をあっと驚かすような映画を何か作れたらな」って。で、例えば、「ありえないことって何だろう?」って考えた時に「障害者が健常者を殺人!」とかって言ってて。障害者は肉体的に圧倒的に健常者より劣るわけですよね?その障害者が肉体を使って、健常者にナイフを突き立てるっていう。それは健常者の人達が普通はないものだっていう、成立しないっていうところでないことにしてるだろうっていうことが映画だったらあり得るなって。あと、実際、報道にはのってないけどそういうことが今まであるはあるんですよね。報道にのせられないっていうのはやっぱり、規制があるんですよね。犯人が障害者だからっていうところから始まるんですけど、それは逆差別の構造ですね。でもそれってややこしいじゃないですか?どっちの双方も扱わなきゃいけない事件になっちゃうんですよ。世の中では四捨五入されちゃう事件なんですけど、それを「映画で思いっきり全面に出してしまうのは痛快だ」っていうのを仲さんと住田さんは笑い話の一環みたいにしてしゃべっていた。で、僕のところに電話がかかってきて、「ちょっとそういう話が出てんねんけど、やらへん?」って言われて、「嫌です」って(笑)。


※ 住田雅清(すみだ まさきよ) 1957年4月11日生。西宮養護学校中等部卒業。 阪神障害者解放センターの事務局長と同時に、NPO法人・障害者生活支援センター「遊び雲」副代表 相談業務リーダー、全国自立生活センター協議会のピアカウンセラーとして、自立を目指す障害者の相談にのっている。また、大阪に拠点を置く障害者だけの劇団「態変」のエキストラ出演、自身でバンドを組みライブを行うなど、アクティブに活動中。柴田剛監督最新作『堀川中立売』にも出演!

--- そうでしたか(笑)。

柴田 うん(笑)、最初は。だって、それはぶっきらぼうに「住田雅清さんって誰だ?」っていうところからの話で、しかも障害者だって言うし・・・僕の身近に障害者という人がいないから深く関わったことがなかった。その時の僕は、1作目の『NN-891102』の後に映画を撮りたかった。映画で、映像で仕事をしていきたい、食べていきたい、東京の制作会社に行くとかそういうことをいろいろ考えたりしてる時期だったんですけど、でも、「自分の中の内発的な映画を作っていきたい」っていう時でもあったんですね。今の話は思いっきり矛盾してますけど。その最中に「やらへん?」って言われて、自分でそれは整理出来てないなって思って、「嫌です」って言ったんですけど、そこで「まあまあ」って食い下がってくるもんだから(笑)、「じゃあ、ちょっと会ってみますか」っていうことになったんですけど、「会う前に一度、仲さんと健常者同士でざっくりとプロットないし脚本らしきものをやり切ってから会いたいです」って言って。会ってしまったら引っ張られてしまうものがあるって察知したんですね。引っ張られちゃったらドキュメントになる。そんなシャバいことはしたくない。だから、そういう意地みたいなものと、当時の思いと社会に対する自分の立ち位置と、障害者、健常者っていう・・・のちのち撮影でわかってくるんですが、世界が完全に違う。同じ人間で日本人なんですけど、やはり人種が違うくらい違うんです。そういうものを何となくは察していたんで、それをこうではないのかっていう仮説を下に。

--- プロットないし、脚本を完成されてから、仲さんを介して住田さんにお会いしたという。

柴田 そうですね、そこから実際お会いして。でも、その時はわからなかった。数日後、「ご飯食べに行きましょう」って言われてラーメン屋さんに連れて行かれたんですけど、住田さんのラーメンの食べ方は壮絶なんですよ。

--- 壮絶?

柴田 ラーメンって、普通はつるつるすするじゃないですか?住田さんの場合は肢体不自由者なんで、筋肉がつっぱるんですよね。舌も巻く感じじゃないからつっかえて出てきちゃうんですよね。そうすると、ラーメンすすれないじゃないですか?だから、どうするかっていうと、上唇と舌でラーメンの束をちぎって食べて、ぐって飲み込んでいくもんだから、しなちくとかメンマとかがどばーって散らばるんですよね。だから、「ああ、これはしてやられた」って思って。それを見せ付けるために僕らとスタッフをラーメン屋に連れて来たんだって。それで僕らの反応を窺ってたんですよね。その時、クランクインではないんですけど、住田さんにカメラに慣れてもらおうと思ってカメラも回してました。「映画撮影チームとして住田さんと今こうやってお会いして、これから関わろうとしてるので」っていう断りを入れて。すると、住田さんがラーメンを壮絶な食べ方で巻き散らかしてるから、スタッフが掃除しようとしたんですよ。だけど、僕はそれを「ダメ、勝手にそんなことしちゃ」って止めたんですよね。

もっと関係を築きたい最中で、知らないものは知らないし、途中で気付く反応がおそくても、それはそれとして本当に関係を築けるんだったら、反応は早くなきゃいけないんですよね。ヘルパーさんに対して、僕らが中途半端な真似をするのは逆に本当に失礼だし、むしろその領域には近付かないっていう思いだったんですよ。だから、「僕らは映画撮影で来てて、ヘルパーしに来てるんじゃないんだ」って言って止めたんです。そしたら、住田さんがぎって睨んできて。もうそっから、これは本当に手強いし、これで映画を撮り終えることが出来たら、それだけじゃなくて、「何か一つ経験が出来るぞ」っていう確信が持てたんですね。あれが一番印象深かったですね。

その日が終わった後、仲さんにそのことを報告したら爆笑して、「それでいいよ、それなんだよ。何事も中途半端にやるんじゃなくて、その時のお前の選択は正しいよ。住田さんは着実に見てるし、本当に裏読みをする人だからね」って言われて。おもしろいなあって思いましたね。それがきっかけになって、より住田さんを知ろう、住田さんを通して障害者の世界が見えるんだっていう気持ちが生まれてきて。

あともう一つは、仲さんは普段ヘルパーをしてるから、障害者とヘルパーという世界の話、資格の問題とかいろんな話になってたんですけど、僕はヘルパーと障害者の日常とそれを取り巻く社会の機構、システム、そこを描くつもりはさらさらなかった。住田さんと仲さんが決めてたのは、「障害者が強行に出る」っていう話ですからね。厳密に言ったら、障害者じゃなくてもいいわけですよね?なので、そこに住田雅清さんっていう人がたまたま障害者でいただけだっていうところでカメラをスタートさせる方がいい。そっちがブレちゃうと全部ブレていく。障害者の世界を丁寧に描いたとしますよ?出来ますよ。でもね、それをやったら犯罪者を肯定することになる。僕が出したかったのはそこから見た向こうの景色とかじゃなくて、反対側から見たこっちの景色っていうのと、立ち位置の話じゃなくて、この間にある距離っていうお話を浮き彫りにさせる。むしろそれしか出来ないし、それを本当に浮き彫りにさせるのはもっと難しい。だって、空間ですからね。相手じゃないですからね。だから、僕は「目線だけはブレない」っていうことを仲さんにも住田さんにも伝えて、お互い手探りでそこから1年半、撮影をしながらやってましたね。

でもね、さっき「僕はヘルパーじゃないので・・・」って言いましたけど、1年半も付き合ってると、撮影してるのかヘルパーやってるのかわかんなくなるんですよね。住田さんのこぼしたお茶とかよだれとか漏れたおしっことか(笑)で、靴下とか洋服びちょびちょになったりして。撮影終わりがいつも0時越えとかそんなのはザラで、ヘルパーさんが作ってくれた住田さんのご飯を温めて食べてもらって、「じゃあ、また明日、9時に来ます」って言って、僕らが家に帰るのは夜中の3時とかになって、そのべちょべちょのまんま風呂入るのもめんどくさいくらい疲れてるから、とりあえず寝て、次の日そのまんまかぴかぴになって行って、みたいな(笑)。


おそいひと


--- 実際の住田さんの性格などにおいてもいろいろな部分があると思いますが、主人公 住田雅清という人物のキャラクター設定に普段の住田さんは反映されていますか?

柴田 現実の日常生活の住田さんは本当に虫1匹殺せないような・・・いろんなヘルパーのおばさんやらお姉さん方やらに好かれている人で、要はバランサーですね。実際、事務局長をやっていて、ある障害者がいた場合にその人の性質、性格に見合ったヘルパーさんを呼ぶとか、女性の障害者がいたら、同じ女性でもこの人だったら話が合うからとか、そういうマッチングをやる係なんですよ。そういう人だから至極温厚で。実際でもこの映画の殺人者、住田雅清というのは何を考えてるのかわからないというか、ずっと持ち続けた怒りをそのままむしろ素直すぎるくらい持ち続けているという、しかもいい歳こいて。

--- いい歳こいて(笑)。

柴田 42歳になっても(笑)。なので、ヘルパー達といる表の顔に対して、本当は内心こんなこと考えてるんだぞっていう、強行に出る時の住田雅清の感情は「自分はアンチヒーローになるんだ」っていうところを衣装で表現しましたね。それは少年がバッドマンとかダースベーダーに影響を受けるとかそういう感覚ですよね。映画の中に1回、自分の作り上げて来た住田雅清像を押入れに頭付けながら(笑)、「よし」ってやっているシーンがあります。好きなガチャガチャとかのおもちゃとかそういう趣味とか・・・デビルマン憧れっていう(笑)。全身黒ずくめでチャックをシュっと上げる時は、「戦いに出るぞ」っていう。それだけは絶対撮りたいと決めてましたね。

あと、キャラクター設定っていうのは実際、住田さんを見てると予想外の動きをしてくるので、僕の中の勝手な常識で「扉のノブをひねって入って下さい」って言ってやってもらったら、普通だったらぱって5秒くらいで出来るものが下手したら数分くらいかけたりするわけですよ。つるってすべったりして。それから、住田さんのしゃべりは「アホか」とか「オモロー」とか「オッケイ」くらいはわかるんですけど、口でしゃべれないですから、『おそいひと』の本編のようにトーキングエイドでしゃべるんですけど、そういう時、住田さんが考えてギャグを言うんですよ。ギャグってリズム感が大事じゃないですか?でも、トーキングエイドで話すとリズム感なんてへったくれもないですから、全部ネタばれなんですよね(笑)。それに対してリアクションを取るってのがこっちもおそい。そんなの、ヘトヘトに疲れるでしょ?

--- そうですね(笑)。

柴田 でもその間にはっと気付いたのが、何を考えてるのかっていう時の顔、目付きがすごいんですよね。要は相手をすごくしっかりと観察して文字を打って、ピッって押すと音声になるから、「あ、本当にフォトジェニックだ」っていうか。住田さんの表情っていうのは言葉よりも語ってるんですね。そういう様子をずっと見てると、トーキングエイドに何を言わすかなんですよね。なので、「これはもしかすると、お客さんはいろんなことを多面的に捉えられるぞ」っていうところがあったんで、「何を考えているのかわからない」っていう、最大で最高の演出する武器、住田さんの顔、表情というところから、キャラクター設定は「何考えてるかわからない男」っていう風にして。

--- それを下に。

柴田 そうですね。映画では「距離」っていうことが浮かび上がったことはわかったんですが、何で「距離」だったのかなあ・・・。僕は社会との違和感を当時24〜5歳の時に感じてた。就職口とかバイト口すらも不景気でなくて大変だった。やっぱりこう、子供じみた恨みもちょろっと持ったりしつつ、でもそれをバネにしてナニクソど根性で食べてかなきゃいけないしみたいなそういう感覚から「距離」って出たのかなって思ったんですけど、そうじゃない、それだけじゃないですね。一番大きなネックは、住田さんのトーキングエイドと、相手の質問を聞いてその人をじっくりちゃんと観察した上で言葉を置いて、「どうですか?」ってやる前後の表情、あれが「距離」です。それです、それです。ああ、思い出してきた、いろいろ(笑)。

特別な時間だったんですよね、住田さんとの1年半っていうのは。ヘルパーしてるんだか、撮影やってるんだかわかんなくて、住田さんと僕の真ん中にトーキングエイドがあって、あのリズム感がものすごい当たり前だったんですよね。だから、健常者と話す時もその感覚の余韻が残ってるから、今までの僕は相手にこう言われたらすぐこう切り返すみたいな人間だったんですけど、ちょっとワンクッション置けるようになったんですよね。あれから10年経ってるんでだいぶなくなってますけど(笑)。今思い出しました、それです。


おそいひと


--- 先ほど、住田さんは至極温厚とお話して下さいましたが、それでも内に秘めた凶暴性みたいなものを感じる瞬間もありましたか?

柴田 実際の住田さんは、本当に凶暴性はないんです。凶暴性よりももっとこう・・・闇雲な怒りではなくて、理知的な憤りを世界に対して丁寧に持っていて、決してずるいやり方であげ足を取ったりすることなく、思いっきり正論正攻法でやる人なんで、住田さんの怒りを引き出すっていうのは難しかったですね。ただ、僕らは当時、若い撮影チームで少人数でやっていたんで、障害者に対しての、住田さんに対してのヘルパーを万全に出来てないんですよ。気付いたら、住田さんに昼飯と夕飯を抜いちゃって撮影してたりして。「じゃあ、帰ります」って帰った後、夜、住田さんから「君達、監督も含めて何を考えてるんだ!」ってメールが来て。「普通は、昼飯と夕飯は出すだろ!」って(笑)。「食べなければ芝居も出来ない。君達の計画性のなさに僕は憤りを覚える。しかも、3時間も軽トラの荷台の上に放置しやがって!」って(笑)。気付かなかったんですよね、もう違うシーンを必死で撮影してたんで。「そんな態度だったらこんな映画は成立しないよ。やっても意味がない。君達は映画を撮る前に人間とは何かを考えろ!」みたいなことががーって長文でメールで来て、でも、最後に「いい映画にしよう!」って(笑)。そこに喜怒哀楽が全部詰まってるんですよね。これがまた住田さんの特徴の一つなんです。住田さんには怒りはないんですけど、喜怒哀楽っていうのがもう全部メールの中にひとかたまりになってあるんです。一気に物事を言ったり、キャッチボールしていくっていうリズム感を持ち得ないから、メールで思いをどんと伝える。今でこそメール文化で、Twitterとかもあるからぱぱってぼやきだとかしゃべりがキャッチボール出来るインフラが整いつつある世の中なので、本当にテレパシーみたいなことが出来ちゃう世の中ですけど、2000年の時というのはまだそういうのがない環境で、ヘトヘトで西宮の住田さんの家からバンで大阪まで帰ってる時にそんな長文のメールが来るとね、本当どっと疲れますよ(笑)。そういうコミュニケーションの人なので、怒りだけ切り取るとかではないですね。

まあ、笑いの方が多い人です。歩いてて、タンスの角に足ぶつけてつまずいて、倒れて痛すぎて爆笑してるとか(笑)、そういう人なんで、映画の中の殺人鬼、住田雅清っていうのを出すのは本当に難しかった。撮影中、住田さん、笑っちゃうんですね。「ありえへん」って(笑)。「でも、やって下さい」って言って。自分にないものを演じるから、住田さんの方がむしろ大変だったんじゃないですかね。住田さん自身の映画というものは「寅さん」(『男はつらいよ』)でしたから、笑いあり涙ありなんですよ。最後の最後までこの映画に笑いあり涙ありみたいな寅さん像を持ち込もうとしてましたからね(笑)。それは一応、何かでひっかかったらおもしろいかなって思ってシーンは用意して撮ったんですけど、背びれ尾びれの蛇足の部分、枝葉の部分になっちゃうんで切ったんですよ。もっとシンプルにありえない物語、障害者が健常者に対してナイフを突き立てていくっていう、そこに集中しよう。そういう強行から見てぱんっと空間が立ち現れていくっていう方に持っていこうとしてたんで。

住田さんはね、人が良すぎて弱気なところがあるんですよ。なので、「何か乗らないなあ」って感じでナイフをぶすっと突き立てるシーンで血糊ぼしゃーみたいな感じでやってるじゃないですか?(笑)。で、翌日は公園でみんなでビール飲みながら、子供達の泥遊びの泥団子に(堀田直蔵演じる)タケが「ハンバーグ100円、ミートボール、うーん・・・25円。スーパー玉出価格」とかって言って、それを住田さんがハハって笑ってビールを飲むみたいなシーンを撮ってると、「やっぱりこんなシーンが好きです」とかって売り込んでくるんですね。住田さん自身、映画ってどういうものかっていうのをあんまり捉えていなかった。でも、とりあえず、役者としての勘はすごいあるんですよね。だから全貌はもう任せてもらいました。信じる他ないですよね。もはや「1年半もいます」っていう状況ですからね。当初の3ヶ月4ヶ月はやっぱりこう・・・喧々諤々なところがありましたけど、そういう山を越えて行くと分かり合えていくところが出来て。



(次の頁へつづきます)



『おそいひと』 限定特典映像付きで4/2 リリース!


監督:柴田剛

原案:仲悟志
音楽:world's end girlfriend 、バミューダ★バカボンド

出演:住田雅清、とりいまり(維新派)、堀田直蔵(バミューダ★バガボンド)、白井純子、福永年久、有田アリコ

製作:志摩敏樹
撮影:高倉雅昭、竹内敦 録音:森野順 音響効果:宇野隆史
編集:市川恵太、鈴木啓介、熊切和嘉、柴田剛

【特典内容】 First meets住田さん〜8年後の住田さん、『おそいひと』予告編、柴田剛監督短編『夢の巷』、おそいひとパーティー(東京・大阪・京都)ダイジェスト、『堀川中立売』特報

2004年 / 本編 83分(特典映像 約40分) / モノクロ(一部カラー)  

賛否両論の問題作!柴田剛監督 『おそいひと』
『おそいひと』 Official Site!

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『おそいひと』 リリース&インタビュー記念! プレスリリースを抽選で3名様にプレゼント!


※応募締切 2010年4月30日(金)
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profile

柴田剛 (Shibata Go)

1975年、神奈川県生まれ。99年、大阪芸大卒業制作作品として、処女長編『NN-891102』を監督。00年、ロッテルダム映画祭(オランダ)、Sonar2000(スペイン)他各国の映画祭やフェスティバルに出品後、国内でも劇場公開を果たす。02年、パンクライブドキュメント『ALL CRUSTIES SPENDING LOUD NIGHT NOISE 2002』を制作。04年、長編第2作となる『おそいひと』を完成。第5回東京フィルメックスを皮切りに、各国映画祭(15カ国以上)に出品(05年ハワイ国際映画祭にて Dream Digital Award を受賞)。08年、長編第3作『青空ポンチ』を監督。ライブ&PV集『バミューダ★バガボンドDVD』を制作。自作の上映活動や様々な企画やイベントへの参加を経て、2010年、長編第4作『堀川中立売』が公開待機中!

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