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松浦弥太郎さん インタビュー

Friday, March 5th 2010

interview
松浦弥太郎さんインタビュー

読み終えたあと、心地よい風が心と体を通り抜けたような気分になった、松浦弥太郎さんの新刊『あたらしい あたりまえ。』
暮らしや仕事をいきいきとさせるヒントが詰まった実例集です。
松浦さんは、雑誌『暮しの手帖』編集長、書店「COW BOOKS」代表を務め、そして文筆家でもあります。
肩書きだけを目にすると慌しい暮らしを想像してしまいそうになりますが、ふだん雑誌などでお見かけする姿や松浦さんの文章から受ける印象は、むしろ慌しさとは対極のもの。
この新刊を読み、松浦さんがいつもみずみずしい佇まいでいらっしゃる理由が、わかったような気がしました。
『あたらしい あたりまえ。』について、「COW BOOKS 中目黒」で松浦弥太郎さんにお話を伺いました。



--- タイトルにもなっている、「あたらしいあたりまえ」という言葉には新鮮な響きがあります。

 充実した日々を過ごしたいと思うのであれば、日々の中では何か工夫や発見が必要で、工夫とか発見っていうのは、すなわち自分の好奇心の先にあるものを全てはかり直すっていうことだと僕は思っています。
はかり直すことであたりまえが見つかるというか、それは新しい発見であったり出会いであったりするんですよね。それはある意味、自分にとっての宝物で、あらためて計測をした人だけが得られるものです。
常に自分で確かめて、自分にとってのあたらしいあたりまえを計測しているっていうのが生活の楽しみ方なんじゃないかなって思います。
一番こわいなと思うのが、「みんな30センチって言ってるから、これは30センチなんだ」って思って、それが一番正しいと思いこんでしまって、自分であらためて計測するという行為をだんだん忘れてしまうことです。はかりなおすということを。
「みんなこう思っているよね」とか「みんなこうしているよね」っていう、その「みんな」っていうのも、じゃあ何人?っていうことを考えると、これは一般論ですが、同じ考えを持っている人が3人いると、もう「みんな」って言うんですよ。

--- あぁ 確かにそうですね。私も、友人3人が同じことを言ったら「みんな」って思ってしまうかもしれないです。

 100人が言っているわけじゃないんですよ。
たった3人の人が同じことを言っただけで、それを受け取った自分っていうのは、「みんな」そう思っている、と信じてしまう。そういうところが落とし穴だったりするんです。
あたりまえのはかり直しをして、それを自分のオリジナルにすることは、自分のアイデンティティとか、自分は何をしたいのか、何のために生きているのか、そういうことの下支えになるはずなんですよ。僕の周辺の若い人達も含めて、目的とか意味とか見つけられない人が多いんですよね。夢は持っていないし、迷っている人も多いですよね。
世の中にあるあたりまえなことは、ひとつの情報ですが、それを頼りに生きてしまう習慣がついてしまってるから不安感が残る。
地図を自分で描いていないから、どこに連れていかれるのか分からないまま、本当にこれでいいのかな?と不安を抱きつつも流されているんです。

--- 考えや行動の元が自分発じゃないということですね。

 そうです。そういう意味でも、自分の人生、人生っていうと大げさですけど、暮しの地図を自分で作るっていうことを含めて、自分にとっての普遍的なものって何だろうって、常に好奇心を持って考えるということが「あたらしいあたりまえ」のテーマなのです。
この本に書いてあることは、僕があたりまえのはかり直しをして見つけたちょっとした考え方とかささやかな心持ちなんです。ですから、読んでいただいた人たちにとっては「松浦弥太郎という人が計測した場合はこうだった」ということであって、みなさんにとってはそれぞれ違うはずなんですよ。
ですから、あらゆることに対してあたらしい計測をしてみたら、みんな生活が楽しくなるんじゃないかなと思いますね。


松浦弥太郎さんインタビュー

--- 世の中のあたりまえに対して、自分ではかったら違うんじゃないかって気付いた最初のきっかけはありましたか。

 色々なメディアが増えて、情報に触れることが簡単になりましたよね。そうなった時に、情報をある程度自分で遮断しないと、ちょっと大変だろうなっていう風に思いました。
情報が自分達の生活をどんどんおびやかしていることに対する感覚があるかないかっていうことを察知するっていうのは、自分が生きていく上でのセンスだと思う。要するに好奇心を持つか持たないかということです。自分の環境とか自分の生活とか、仕事もそう、それらに好奇心をどれくらい持つかっていうことなんですよね。
別にテレビで流れていることが嘘であろうとどうでもいいやとか、インターネットにあることがどこまで本当かどうでもいいとか、無関心っていう人が多いんですよね。暮らしや仕事、人間関係において、僕は、少なくとも無関心っていうのは一番いけないことだと思ってるんです。関心を持たないっていうのはモラルとして一番低いと思う。
僕はそれを何かがきっかけとかではなく、自分が社会との関係性を持ち始めたころに自然と考えてきました。なぜかと言うと、それは社会との関係性の中での責任です。 社会の一員であるから、どうでもいいっていうわけにはいかないですよね。

--- ルールについての章で、「自分のルールを作るということは明日の自分への約束で、自分で決め自分で果たすものならルールは生きがいになる」という言葉が印象に残りました。

 ルールについても、やっぱり常に自分ではかり直しをするんです。
ひとつ大切なことは、管理というのは決して他人にされるものではありません。 自分でするものなんですね。
だから、ルールというのは人から与えられるものではなくて自分で作るものです。
例えば会社でも「ここのルールを私に教えてください」とか、そういう姿勢がある意味正しいし、真面目だっていう考えがおおよそあると思うんです。でも 僕は違うと思うんです。
自分が関わる仕事について知ることが大事だとした場合、そのルールを自分で作ることが必要だと僕は思うんですよ。あたりまえの計りなおしと一緒で、ルールも与えられるのではなく、自分で考えて、たとえば自分が会社に再提案することが僕は重要だと思っています。

--- 「破ったら罰が下るようなものではなくて、自分で果たせたら喜びがあるのがルール」という文を読んで、私もそういう風にしていきたいなぁと思いました。

 何が大事かというと、仕事も生活も、「自分で考えて、自分で行う」という、誰かにやらされているんじゃないということ。誰にもコントロールされないということです。常に何かに、誰かにコントロールされている自分っていうのはとても不幸だと思う。
コントロールされるっていうのは楽であるけれども、そういう癖がつくと、是から先の人生すべてに関わってくる気がしますね。いつも何かにコントロールされている自分という枠から出られなくなる気がしますよね。

--- 同じ物事でも、見方、考え方次第ですね。

 要するに、どこの世界であっても直立歩行できるかどうかっていうことですよ。
どこかにつかまって歩くのか、それとも自分で前を向いて、自分の作った地図を見ながら一人で歩いていけるのかどうかっていうのが大事です。自分が歩いているところから、みんながまだ見えているのなら安心するけど、何も見えなくなってしまうところまでは恐くて行かない。でも、結局みんなが行かないところに自分が歩いていかない限り、自分の幸せとか、生きている感など、なにも見つからないですよ。



『あたらしい あたりまえ。』 松浦弥太郎
新刊『あたらしい あたりまえ。 暮らしのなかの工夫と発見ノートA』 松浦弥太郎
 
「昨日より今日を少しでも、あたらしい自分で過ごしたい。今日一日があたらしくあれば、大切な一日を自分らしく過ごせて、それだけでうれしくなります。 仕事と暮らしにおいて、私たちが社会と分かち合うべきことは、自分が発見したり、工夫したり、気がついたりした、あたらしさなのです。」(はじめに より)
あなたにとっての「あたらしい あたりまえ」を見つけるためのヒントが詰まった一冊です。

profile

松浦弥太郎 (まつうら やたろう)

1965年、東京生まれ。『暮しの手帖』編集長、「COW BOOKS」代表。
高校中退後、渡米。アメリカの書店文化に惹かれ、帰国後、オールドマガジン専門店「m&co.booksellers」を赤坂に開業。
2000年、トラックによる移動書店をスタートさせ、02年「COW BOOKS」を開業。書店を営むかたわら、執筆および編集活動も行う。06年より『暮しの手帖』編集長に就任。
著書に『本業失格』『くちぶえサンドイッチ 松浦弥太郎随筆集』『くちぶえカタログ』『場所はいつも旅先だった』『最低で最高の本屋』『軽くなる生き方』『日々の100』『今日もていねいに。』などがある。

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