THE ROMANTICS
ノリントン&シュトゥットガルト放送響
ロマン派交響曲お買い得ボックス(10CD)
今もなお精力的に演奏活動を続ける巨匠サー・ロジャー・ノリントンのアニヴァーサリーを祝して、シュトゥットガルト放送響を指揮した選りすぐりの名演奏が10枚組ボックスに。
「ピュア・トーン」という看板を掲げ、1998年の首席指揮者就任以来、シュトゥットガルト放送響とともに録音してきたこれらの演奏は全て首席指揮者時代の録音です。
シューベルトの『グレート』、ベルリオーズの幻想交響曲、メンデルスゾーンの『スコットランド』『イタリア』、ブルックナーの第4交響曲、ブラームスの第3、第4交響曲、ドヴォルザークの『新世界より』、チャイコフスキーの『悲愴』、マーラーの『巨人』、第4交響曲、そしてエルガーのエニグマ変奏曲などの名曲を多数収録。
広く普及したヴィブラート演奏に異を唱え、古典派だけでなくロマン派の作曲家たちの場合でも、作品本来のサウンドを追究するには、より素直な奏法による「ピュア・トーン」が大事だと、一貫して力説してきたノリントンの音楽を手軽に楽しむことができるお買得ボックスの登場です。(HMV)
【収録情報】
Disc1
・シューベルト:交響曲第9番ハ長調 D.944『グレート』
・シューベルト:『魔法の竪琴』序曲
録音時期:2001年7月18-20日(交響曲)、2002年5月3日(序曲)
録音場所:シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザール
録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)
まるでベートーヴェンのような力強さと筋肉質なサウンドでグングン進む『グレート』は、余分な感情移入のスキも無い快速テンポが魅力。『ロザムンデ』も同じく引き締まった路線での演奏が新鮮です。
Disc2
・ベルリオーズ:序曲『宗教裁判官』 Op.3
・ベルリオーズ:幻想交響曲 Op.14
録音時期:2003年7月2-4日
録音場所:シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザール
録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)
やや駆け足の感があった旧盤よりもゆったりとしたテンポで、全体で約6分ほども長い演奏時間。ただしアプローチ自体は大きく変化しておらず、特別なヒネリを加えずにベルリオーズが書いた譜面を忠実に音化してゆくことで、作品の持つロマン性と狂気を表出させることに成功しています。
ほぼ指定通りのテンポにより旋律の輪郭を際立たせる、第一楽章冒頭からその姿勢は顕著といえるでしょう。ノリントンらしいメリハリの利いた演奏が大きな魅力で、木管の繊細なフレーズ感、対向配置の絶妙な掛け合いなどをしっかりと捉えた録音も秀逸。
通常よりもだいぶ遅く聴こえる第四楽章は非常にブキミなうえ、正確にクレッシェンドをするトロンボーンのペダルトーンが輪を掛けます。
第五楽章のEsクラリネットのはじけぶり、倍音の多い巨大な鐘、ラストの強烈なアッチェレランド(これは譜面にないですけど)など、聴きどころ盛りだくさん。終演後のブラヴォーも強烈です。
Disc3
・メンデルスゾーン:交響曲第3番イ短調 Op.56『スコットランド』
・メンデルスゾーン:交響曲第4番イ長調 Op.90『イタリア』
(ボーナストラック)
・第3番『スコットランド』のノリントンによるコンサート前説(英語)
・第4番『イタリア』のノリントンによるコンサート前説(英語)
録音時期:2004年9月3,7日
録音場所:シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザール
録音方式:ステレオ(デジタル/「ヨーロッパ音楽祭」におけるライヴ)
15年ぶりの再録音となる『スコットランド』と『イタリア』。「ピュアでリアル。暖かく美しい音が出せるから」とノリントン自身が語るノンヴィブラート奏法が見事に生かされて、音楽が見違えるように鮮烈、緊張感と迫力も申し分なく、サルタレッロの嵐のような切れ味もすさまじいばかりです。憂いを帯びた旋律の美しさが印象的な『スコットランド』も見事で、ヴァイオリン両翼型配置のオーケストラは、今回もノリントンの意図をしっかりと汲んで相変わらず息の合ったところをみせています。
なお、開演に先立ち、ノリントン自身が作品について聴衆に解説する模様がボーナスとして収められています。
Disc4
・ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調 WAB104『ロマンティック』[第1稿]
録音時期:2007年4月26,27日
録音場所:シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザール
録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)
通常のヴァージョンと大きく異なり、その斬新さから最近人気を呼んでいる交響曲第4番第1稿。初演時には、この独創的な初稿は聴衆に理解されず不成功に終わりましたが、近年はこのヴァージョンへの評価が高まり、インバル(68分)やギーレン(64分)、ロジェストヴェンスキー(76分)、ロペス=コボス(70分)、デニス・ラッセル・デイヴィス(67分)、シモーネ・ヤング(70分)、ボッシュ(69分)、ケント・ナガノなど注目すべき録音が登場するようになって来ました。
ノリントン&シュトゥットガルト放送響がつくりあげる透明なサウンドと爽快なテンポ感は、そうした「先駆的」あるいは「意欲的」な面々の中になかにあっても非常に個性的で、余分な脂肪を含まぬ「ピュアトーン」ならではの見通しの良さと美しさ、約60分という快速テンポの小気味良さが際立っています。
Disc5
・ブラームス:交響曲第3番ヘ長調 Op.90
・ブラームス:交響曲第4番ホ短調 Op.98
録音時期:2005年7月4-6日
録音場所:シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザール
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
ヴァイオリン両翼型配置の利点である見通しの良いサウンドや、ノリントンの特色である生き生きとした音楽づくり、ピリオド・アプローチのふんだんな研究成果を踏まえて、ノリントンが手兵シュトゥットガルト放送響と生み出したピュアでリアルなブラームス。
Disc6
・ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調 Op.95『新世界より』
・ドヴォルザーク:序曲『謝肉祭』 Op.9
録音時期:2008年7月9-11日
録音場所:シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザール
録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)
ピュアトーンによるドヴォルザーク演奏ということで話題になった『新世界より』は、こってり系の演奏からは聴くことのできない音楽が楽しめるのがポイント。チェコ民謡やアメリカ先住民の歌など、素朴な素材がそのまま生きるような飾らぬ音には独特の魅力が備わっています。
Disc7
・チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調 Op.74『悲愴』
・チャイコフスキー:バレエ音楽『くるみ割り人形』組曲 Op.71a
録音時期:2004年、2008年(組曲)
録音場所:シュトゥットガルト
録音方式:ステレオ(デジタル)
19世紀末の作品ながらほぼ二管編成で書かれ、終楽章も実際にはアンダンテだった『悲愴』の当初の姿は、ホールも小さくヴィブラートも普及していなかった事情なども考え併せるとると、のちの大ホールでの倍管での華美な演奏とは、大きく異なっていたものと想像されます。ノリントンのピュアトーン演奏による『悲愴』を聴くと、そうした周辺環境の要因も考えさせられる面白さがあります。
Disc8
・マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』(花の章つき)
録音時期:2004年9月30日,10月1日
録音場所:シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザール
録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)
2004年来日公演でも大反響を呼んだ『巨人』。実演とまったく同じで、舞台の左右両翼に第1、第2ヴァイオリンを配置する型を採り、“ヴィブラートを排した”オケ。そして、ここでもやはり「花の章」を復活させた形での演奏となっています。
作曲者が実際に耳にした、音楽が生まれた瞬間の新鮮な響き。ノリントンが言うように6年をかけて徹底的に追求した成果が演奏に盛り込まれています。
Disc9
・マーラー:交響曲第4番ト長調
録音時期:2005年9月22,23日
録音場所:シュトゥットガルト・リーダーハレ、ベートーヴェンザール
録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)
ステージ両翼に配置された第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリン、背後に一列に並ぶコントラバスなどの織り成す立体的な響きの面白さ、ヴィブラートを廃し、アクセントを克明にしたフレージングや、軽やかなリズムによって生まれたピリオド的な効果など、このコンビならではの風通し良く多彩な表情はいつもながら。
ほぼ同じ時期に収録されたファビオ・ルイージの後期ロマン派的な演奏とは対照的に、ノリントンのアプローチは率直そのもの。心地良く弾み、屈託無く前進してゆきます。もちろん、第3楽章では静謐な美しさを示してくれていますが、ルイージの極度に繊細で陶酔的な演奏に較べると、実に日常的で楽天主義的な線の太さがあります。
第4楽章で見事な歌唱を聴かせるコムシも魅力的です。歌いだしから元気いっぱいで、まさに歓びに包まれた音楽としかいいようがありません。マーラーの4番にはこれまで様々な解釈が存在しましたが、ノリントンの提起したアプローチは、作品本来の率直な叙情性をごく自然に示しえている点で、第1番のときよりも成功しているものと考えられます。ソプラノは、アヌ・コムシ。
Disc10
・エルガー:序曲『南国にて』 Op.50
・エルガー:序奏とアレグロ Op.47
・エルガー:エニグマ変奏曲 Op.36
録音時期: 2010年、2007年(エニグマ)
録音場所:シュトゥットガルト
録音方式:ステレオ(デジタル)
1934年にイギリス・オクスフォードに生まれたノリントンにとって、イギリス音楽、とくにエルガーは重要で、過去に「自分の心情にもっとも近い作曲家」であると述べていたほど。『序奏とアレグロ』と序曲『南国にて』がともに2010年秋の録音で、『エニグマ変奏曲』が2007年の録音です。
弦楽四重奏とオーケストラとの協奏曲といった趣の『序奏とアレグロ』や、『エニグマ変奏曲』の有名な「ニムロッド」も、ヴァイオリン両翼型配置の利点である、立体的で見通しの良いサウンドや、「ピュア・トーン」のあたたかい響きが織りなす見事な演奏です。
SWRシュトゥットガルト放送交響楽団
サー・ロジャー・ノリントン(指揮)