クリス・スクワイアが亡くなってから数ヶ月後、急遽イエスのベーシストを引き継ぐことになったビリー・シャーウッドのインタビューを読んだ。「ヘヴン&アース」のミキシングを担当して以来続いているイエス関連の仕事の他に、ソロアルバム「シチズン」やトニー・ケイとのバンド、サーカの新作「風車の谷の物語」など、常に4〜5つの仕事が同時進行で進んでいる多忙ぶりに驚いたが、その中でひょっこり出てきたのが「実はワールド・トレイドの新作も作っている」の一言。インタビューの聞き手もまだバンドがあったことに驚いていたが、それは読んでいる私も同感であった。その後ジョン・ウェットンもこの世を去り、彼はエイジアのツアーにも参加することになった。
それから約2年、無事完成したのが本作である。聴くといつものビリー関連の作品にありがちな重ったるさが薄く、いい意味でポップにこなれている。たぶんいつものようなプログレ界の大御所とのコラボではなく、勝手知ったる同年代の仲間とのレコーディングなので肩の力が抜けているのではないか。ビリー絡みの一連のアルバムの中でも出色の作品だし、なにより等身大のアルバムだと思う。もちろんもう一人のキーマンであるブルース・ゴーディをはじめとするビリー以外のメンバーのプレイや立ち位置も絶妙で、なんというか「いいバンド」なのだ。
メンバー全員がスタジオ・マンとして多忙なはずなので、次に集まれるのはいつの事になるやらという感じなのだとは思う。ビリーが亡き大御所の遺髪を継いでステージに立ってくれるのも嬉しいが、でもそれ以上にこのバンドでパーマネントに活動することが本当の意味で「プログレを継承する」ことのようにも思えてくる、そんなアルバムである。