Sunny Day Real Estate

1994年のデビューアルバム『Diary』でそのポテンシャルを見せつけたSunny Day Real Estateはその翌年、まるで夭逝した名作家の遺作のような出来栄えの2ndアルバム『LP2』 （カバーが全面ピンクなので”The Pink Album”としても知られる）を立て続けにリリース。
しかし『LP2』のレコーディング直後、バンドは内的崩壊に向かった。Enigkは再生派キリスト教信者に、リズムセクションのNate Mendel とWilliam GoldsmithはDave GrohlとFoo Fightersを結成。あたかも約束された未来を自ら壊していくかのようにバンドは蠢いた。ファンにとって悲劇的な結末であると同時にあまりに時期尚早な終焉を迎えたSDREは、この”LP2”というアルバムでその強烈な存在感を余すところなく発揮しており、短命であったことが殊更惜しまれる。

冒頭に響き渡るギターから唐突なエンディングまで、『LP2』には溢れかえるエモーションが存分に描き出されている。壮大なバンドサウンドは繊細な音の展開、不安定かつ衝動的な盛り上がりから轟音ギターへと目まぐるしく移り変わるが、全編を通して切ないまでの儚さと憂いをたたえている。

その空気感は狂乱的に掻き鳴らされるギターで切り裂かれる時もあれば、そのまま静謐な音の流れとともに途絶えてしまう時もある。 『LP2』にはこういった瞬間が詰め込まれ、それらが混ざり合ってFriday, 5/4, 8, J’Nuhといった輝かんばかりの楽曲を織り成す。そしてそのサウンドがEnigkの時に痛ましく繊細なヴォーカルと合い重なり、息を呑むほどの感動を呼ぶ。Enigkのヴォーカルは歌詞を聞き取るのが困難なこともあるが、思いがひしひしと伝わってくるような歌だ。

『LP2』は表の見せかけも裏の情熱もさらけだし、溢れる感情で胸を詰まらせつつ聴き手に迫ってくる。そして聴き手までもが同じように胸の詰まるような思慕にかられてしまう。傷ついた魂というものをここまで本能的かつ訴求力をもって表現したバンドはポスト・グランジ世代でも数少ない。また90年代中盤にこれほど心をつらぬくような音を奏でた傑作も他にはほとんど見当たらない。　

バンドは98年に復活アルバム『How It Feels To Be Something On』をリリースし、初の来日公演も果たした。2001年には4thアルバム『Rising Tide』をリリース。各方面から絶賛されるも、レコード会社から誠意のあるサポートを受ける事が出来なかったとして、再び解散を遂げた。 ~ Stanton Swihart, All Music Guide