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なんと魅力的な「醜さ」!
精彩豊かにルネサンス期を呼びさます歌と古楽器の響き
音楽は長い間、美しい響きと調和こそ理想とされてきた芸術領域。かつて文学学者フィリップ・トムソンは自著「グロテスク」(1972)で、よほど拡大解釈しない限り「グロテスクという概念があてはまりそうな音楽作品は一切見いだせない」と言明したそうですが、半世紀の後その主張にアルバム1枚をかけて圧巻の雄弁さをもって反駁したのが、スペイン東部バレンシア地方に拠点を置く古楽集団カペリャ・デ・ミニストレルス。
中世末期からルネサンス末期にかけての膨大な現存作品から18の事例をあげ、美術や文学などと全く同じように、音楽もまたその本来の魅力を全く手放さずに劇場的・文学的な醜悪さを体現できることを、驚くほど起伏に富んだ演奏実践を通じて例証してみせました。詩句や音使いに潜む時としてユーモラスな醜さの側面を、ある時は卓越した演奏を通じ、またある時はラジオドラマさながらの演劇性豊かな解釈で伝えるその巧みさは、さながら千変万化の表情描写で人間心理の闇を暴き出しつつも鑑賞者を魅了せずにはおかない、盛期ルネサンスの画家たちの至芸のよう。スペインのエンサラーダやイタリアのヴィラネスカ、マドリガーレ・コメディアなど、美だけでなく荒唐無稽を描出できてこその曲種の数々を、技量充分の感性豊かな歌唱と古楽器演奏で味わい尽くせます。音の輪郭をよく伝える「CdM」レーベルならではのエンジニアリングも絶妙。「グロテスク」の語源や意味変遷にも迫った解説文(バレンシア=カタルーニャ語/英西仏語訳付)も読みごたえがあります。(輸入元情報)
【収録情報】
1. 作者不詳(13世紀):コンドゥクス『東方ヨリ驢馬ゾ来タリテ』
2. 作者不詳(14世紀):ホケトゥス『幾百年モ先マデ』
3. 作者不詳(16世紀):愛しきカボチャの君、どうしたものか〜『王宮の歌集』(c.1505-20)より
4. 作者不詳(16世紀):糸紡ぎを失くしてしまった、紡錘もない〜『王宮の歌集』より
5. 作者不詳(1500年頃):エンサラーダ『おお学者のホアン・ベリェ! お願いだから』
6. フアン・デル・エンシーナ[1568/69-1530/33]:今はよく食べ、酒を飲もうじゃないか〜『王宮の歌集』より
7. アロンソ・ペレス・デ・アルバ[?-1503]:聖マルティンは、糸紡ぎの女を一目でも見ようと〜『王宮の歌集』より
8. 作者不詳(16世紀):ハンス・ハント〜『王宮の歌集』より
9. 作者不詳(16世紀):見たまえ、あの顔色の悪い痩せた修道士を〜『王宮の歌集』より
10. 作者不詳(15世紀):聖なるかな、聖なるかな、智天使を統べるお方よ
11. マテオ・フレチャ1世[1481-1553]:サン・サバヤ・ググルンベ〜エンサラーダ『黒人女』より
12. トワノ・アルボー[1520-1595]/ミヒャエル・プレトリウス[1571-1621]:モレスカスとカナリアス
13. ジョヴァンニ・ドメニコ・ダ・ノーラ[c.1510/20-1592]:我ら3人、目は見えぬ
14. アドリアン・ヴィラールト[c.1490-1562]:怠け者の年増女たちよ
15. オルランドゥス・ラッスス[1532-1594]:アッラーに祈れ、おお奴隷よ!
16. ロレンツォ・デ・メディチ「イル・マニーフィコ」[1449-1492]:我らはバレンシアの艶男
17. ロレンツォ・デ・メディチ:コンフォルティーニ菓子の歌
18. アドリアーノ・バンキエーリ[1568-1634]:さあ滑稽な話の始まりだ、籠から鳥たちが逃げてゆくんだ〜『謝肉祭最終日の祝祭』(1608)より
カペリャ・デ・ミニストレルス(声楽&古楽器アンサンブル)
デリア・アグンデス(ソプラノ)
ウゴ・ボリバル(アルト=カウンターテナー)
ホルヘ・モラータ(テノール)
アントニオ・サブコ(バリトン)
ロベルト・カセス(ルネサンスギター)
ミゲル・アンヘル・オレロ(打楽器)
カルレス・マグラネル(指揮、ヴィオラ・ダ・ガンバ)
録音時期:2021年2月15-18日
録音場所:スペイン東部バレンシア地方レケナ、サンタ・マリア教会
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)