アメリカンアイドル シーズン9優勝者、Lee DeWyzeのメジャーデビュー作。
毎年恒例の夏ツアーと並行して制作された今作。
例年、そこそこの良作ながらも「突貫工事」ぶりが目立つ作品が多く残念だったが、
今年のLee DeWyzeの場合はまったくそれが感じられない。
11曲中10曲で本人が作曲・作詞に参加しているとのことだが、アメアイ出場以前にリリースした2作からの流れを汲みつつ、
より洗練された曲とサウンドに仕上がっている。
それより何よりこの世界観。
驚くべきことに、11曲すべてがラブソングなのである
(M2については諸説あると思うが、私は広義のラブソングなんじゃないかと勝手に思っている)。
それも一筋縄でいかない、それなりにフックのある曲揃い。
マジですか。とつぶやいたのはきっと私だけではないはず。
以下、3回通して聴いたあとの1曲ごとの簡単な紹介。
M1. Live It Upは本人曰く「アルバムのテーマ」。ゆったりとした中にも切実さと憂いの漂う「アルバムの顔」。
M2. Sweet Serendipityはピアノリフを中心に据えた、アップテンポなナンバー。
先行シングルとして解禁された日には全リスナーがひっくり返ったと思われる(推定)変化球かつ剛速球。
M3. It’s Gotta Be Love ではややマヌケなシチュエーションで始まる恋を軽やかに歌い、
M4. Dear Isabelle は忘れられない恋人への未練たらったらな、少しざらりとした1曲。
M5. Beautiful Like You 唯一本人が作曲に関わっていない曲。音域の広がりが心地よい。自信をなくし、周りが見えなくなっている恋人への応援歌。
M6. Stay Here アップテンポで底抜けに楽しい曲、それなのに「喧嘩中の恋人を引き留める」という内容。
僕と一緒にいれば大丈夫だよ、ってどんな根拠でそれを言うのか。かわいい。
M7. Me And My Jealousy は個人的にお気に入り。シンセトラック、ピアノリフが少し90年代風でもありながら、サビで一気に爆発。
ピアノとストリングスをふんだんに重ねた重厚な音に、別れた恋人への未練がストレートに渦巻く。
M8. Brooklyn Bridge もお気に入り。なんとビリー・ジョエルを彷彿とさせる1曲。意外性のかたまり。改めて表現力の幅広さに感嘆する。
M9. Weightless ミディアムテンポのバラード。アコースティックギターを中心に展開するサウンドは最もインディーズ時代の作風に通じる。
M6-8の緊張感が解放され、ほっと一息つけるような曲。M8、M9は恋人との幸せの絶頂を歌っているのだが、アプローチが全く違うところが面白い。
M10. Earth Stood Still も曲調はM9と少し似ているが、一転、別れてしまった恋人との思い出を歌うせつない1曲。
M11. A Song About Love は個人的にこのアルバムで最も生々しくアグレッシブな曲(当然お気に入り)。アコギ中心のバラードのどこがアグレッシブかというと、歌詞と歌い方。一部まるで独り言のように歌う内容は「別れへの後悔」。「愛の歌を書いたけれど なんでもないんだ」という一節がどこかサイモン・アンド・ガーファンクルを想起させる。
よくできた連作短編集のような、起伏のはっきりとした構成も美しい。
インディーズ2作目の Slumberland が「眠り・夢」をテーマにしたコンセプトアルバムのような作りだったのと同様に、
今作は「恋愛」をテーマにしたゆるいコンセプトアルバムと思えばしっくりとなじむ。
ものすごく印象的なアルバムかといえば、彼に特別な思い入れのない人にはそうではないかもしれない。
しかし、やわらかくも真摯で温かい、そして切実なアルバムであることは確かだ。
US iTunesプレオーダー版、オフィシャルサイト版で収録ボーナストラックが異なるのが非常に残念ではあるが(日本盤に何かしら収録されることを期待)、この通常盤はアルバムの構成が本当に素晴らしいので、ボーナストラックなしでも十分に聴きごたえがある。
アメリカン・アイドルで彼を見て気になっていた方、インディーズ出身のシンガーソングライターに興味のある方はぜひ手にとってみてほしい。