Supplement D’ame

ジャン・フィリップ・ヴィレの新境地。しなやかに、艶かしくもあやしいまでに美しい。 想像の範疇を超えた瞬間、感動は生まれる。

繊細で骨太な表現力、ときに地を這うような雄雄しさ、ときに中国の胡弓のように艶かしくもあやしいまでに美しいアルコの響きは、まるでバレリーナの優雅な舞のよう。もっともジャズ的であるリズム隊を排除し、マイ・フェバリット・シングスはじめとした絶対的エヴァーグリーンなメロディーを携えながら、毅然としたシリアスさとユーモラスさが織り成す多彩な表情が見え隠れする。

ヴィレ特有の万華鏡のように煌めく音色には一音一音、魂が宿っていて、それらの音符、音符にはそれぞれに必要なハーモニーを探し求めている。曲が進むにつれ、ものの見事にヴァイオリン、またはヴァイオリンチェロ、はたまたアルトが寄り添う。そう、これしかないそのユニゾンの結びつきこそ、このユニークな編成が必然であったんだということに気付かされる。キラキラと宙に浮かび、やがて消えてゆく。あの至高のオルケストラ・ド・コントラバスの、さらにもう一段上。

ヴィレの新譜を聴くたび、こいつは別格だなと感じさせる“何か”が確実に存在している。ファンはファンなりのロジックを持って、変化することを宿命づけられたジャズと対峙する。もちろん、未知の感動に胸を躍らせながら。
そして、想像の範疇を超えた瞬間、感動は生まれる。

Text by 前泊正人

Jean-Philippe Viret: contrabass
Sébastien Surel: violon
Eric Maria Couturier: violoncelle
David Gaillard: alto