壮絶な演奏。 尋常ではないライブの記録。

このバルティータは、技術的に勢いのある頃のブッシュがBachの本質を見事に捉えた珠玉の傑作として、もう８０年近く日本の愛好家の間で語り継がれてきた伝説的演奏。４０年近く前に、大先輩が戦火の中でも最後まで手放す事の出来なかった演奏だったと言っていたのを、昨日のことのように思い出します。電気吹き込み初期でありながら、異常なほど音がよいのも魅力、シャコンヌを聞くと、ブッシュが、一つの超越した音楽的世界を構築しており、あのヨアヒムの精神的な後継者と目されたのもなるほどと思う。

　月並みな表現だが５０年代のミルシテインは、心技体ともに一つの頂点に達していた。それを裏づけるライヴがいくつかＣＤ化されているのは喜びに耐えない。バルサムの完璧なバックのもと、ソロは一糸の不安もなく演奏に興じ、それを感じとった聴衆の興奮ぶりもすさまじいものがある。クラシックコンサートという分野におけるある種の金字塔的ライヴと言っていい。

「シャコンヌ」が終わった後、一人の聴衆から黄色い声援が飛んでいました。曲想からいってもあまり似つかわしくない光景です。これだけでも当時のミルシテインの人気の度合いがうかがえます。演奏自体も非常に完成度の高いものです。良友バルサムも乗りに乗っています。