これまで荒れ狂うディジリデュで強烈なインパクトを与えていたトミー・マンシカ＝アホが脱退し、代わりにブロックフレーテのヨーラン・モンソンが加わった最初のアルバム。さすがに多少迫力不足の感は否めない。ストリングスの追加も、今までよりも洗練された感じをもたらすと同時に、野性的な力強さが減った気もする一因だろう。しかし、イェニーのヴォーカルは健在であり、曲も決して悪くない。これまでのイメージにとらわれすぎずに聴けば、良いアルバムといえるだろう。

重々しいディジリデュが荒れ狂う闇に閉ざされた原初の世界から、一転して一気に解き放たれたかのようにハルダンゲル・フェレが新たな世界の誕生を歓喜に満ちて謳いあげる。これぞまさに北欧神話の世界。この冒頭に打ちのめされてその世界に引きずり込まれると、あっという間に最後まで聴いてしまう。北欧の冷たい空気を切り裂くような牛飼い唱法(クゥーラ)の、高音の絶叫に近い独特の響きも魔術的。『ロード・オブ・ザ・リング』のような世界が好きな人、ケルト音楽にも食傷気味の人にはぜひおすすめ。

前２作(Ranarop, Sjofn)に比べると、全体的におとなしめ。荒々しく狂乱するところも少ないし、聴き手を陶酔にいざなう感じも薄い。前２作の衝撃を引きずって聴くと、物足りなく感じることもあるだろう。むしろ、他のフォーク/トラッド系ミュージシャンのアルバム同様、腰を落ち着けてじっくり聴くべきアルバムといえるかもしれない。