Provincia

クルビ・ダ・エスキーナの洗礼を受けたミナス屈指の
サキソフォニスト新作。同地の巧手を従えたセクステート編成で
ロフト・ジャズ的な感覚と解釈でミナス名曲をプレイする傑作。

若手アーティストの台頭で、近年より一層の充実を極めるブラジル産グッド・ミュージックの温床、ミナス・ジェライス。この地を拠点に、セッション・サキソフォニストとしてシーンの中心に位置するのが、本作の主人公シコ・アマラルである。ミルトン・ナシメントの提唱した「クルビ・ダ・エスキーナ」の洗礼を受け、80年代初頭よりプロとしてキャリアをスタート。当初はショーロへ傾倒した活動を中心に、次第にMPBシーンへも舞台を広げる。敬愛するミルトンをはじめ、ネイ・マトグロッソ、ジョルジ・ベンジオール、ルル・サントス、ダニエラ・メルクリ、シダーヂ・ネグラ、エヂ・モッタなど、多くのビッグ・ネームのレコーディング／ツアー・バンドに参加した経歴を持つ。また、ミナス特有の美しい旋律を生み出す優れた作曲家としても知られ、フラヴィオ・エンリケ、レオ・ミナックス、ホベルト・ギマラエスといった90年代以降にミナスの新興SSWとして注目されるアーティストとの共作も数多く残している。そして、直近では、1stアルバムが絶賛されたミナス新世代の楽士団「ミストゥラーダ・オルケストラ」にも出演している。

自身のソロ名義を含めたアルバム・リリースは2000年代に入ってからで、2002年には先のフラヴィオ・エンリケとの共同名義作を、2005年には舞台音楽を収めた作品をリリース。そして前作の2007年「SINGULAR」以来となる本作「PROVINCIA」は、シコを中心に、彼と共にミナス・サウンドの今を支える気心知れたプレイヤーと組んだセクステート（セクステット）編成のインスト／ジャズ・アルバムとして発表された。特徴は、これまでの作品がオリジナル楽曲メインだったのに対し、この1枚はM2を除きすべてカバー・トラックであること。しかも、そのすべてが同郷ミナスを代表する名曲であり、自身の音楽観に大きく寄与した愛すべき旋律を、ロフト・ジャズ的な解釈で綴ったシコ・アマラルならではのミナス・アンソロジーとなっている。

クルビ・ダ・エスキーナの傑作曲として名高いネルソン・アンジェロの名曲「CANOA CANOA」にはじまり、リード奏者ニヴァルド・オルネラス（M3)、ミナス屈指のサウンド・クリエイター：トゥーリオ・モウラォン（M2)、タヴィーニョ・モウラ(M6)といったアシッド・フォーク / プログレッシヴ・ジャズ系のアーティストのカバーからは、シコがプレイヤーー/コンポーザーとしての感性の礎を紐解くことが出来る。そして、ジュアレス・モレイラ(M7)、トニーニョ・オルタ(M8)というミナスが誇るギタリストが生んだ佳曲へのアプローチも素晴らしい。そして、ハイライトは、やはりミルトン・ナシメントの名曲M6「From The Lonely Afternoons」。かのウェイン・ショーターのバージョンでも知られるこのトラックに、ジャズ・ミネイロの真髄を感じずにはいられない。ブラジル／ミナス・サウンドを愛するファンはもちろん、グローバルな視点でジャズを嗜むリスナーにもお届けしたい逸品だ。

【Musicians】
CHICO AMARAL - soprano sax
RICARDO FIUZA - elec. piano (teclado)
BETO LOPES - string guitar (violao)
ENÉIAS XAVIER - bass (baixo)
ANDRÉ LIMÃO QUEIROZ - drums (bateria)
RICARDO CHEIB - percussion