Passagens

アルゼンチン発の豊潤な女性ブラジリアン･シンガー､ベレン･ペレス･ムニス｡
カルトーラ､ジャヴァン、ミルトン､カイーミ､ジョビン､そしてイヴァン･リンス…。
今､彼女が歌いたい愛すべきMPBの佳曲が詰まった宝石箱のごとき新作｡

アルゼンチンからブラジル音楽に傾倒したアーティストも昨今では珍しくないが､ディアネ･デノワール､ベト･カレッティ､マリアーナ･メレーロなど､その系譜を辿るアーティストたちはそのすべてが魅力を放っている｡これはアルゼンチンという音楽の土壌がもたらしたと思われ､決して偶然の産物ではないのかもしれない｡今回のヒロイン､ベレン･ペレス･ムニスもそんなブラジル音楽に心酔した一人である｡
ベレン･ペレス･ムニスはブエノス･アイレス生まれのシンガーで､ブラジルとアルゼンチンを行き来しつつ､MPBとジャズの愛聴して育った才女である｡2006年にMDRレーベルから「CLAREZA」をリリース。MPBクラシックスをを可憐にカバーした作品として､熱心なブラジリアン･サウンド･フリークからも高い支持を集めた作品として知られている｡4年ぶりとなる本作「PASSAGENS」は､彼女が､愛すべきMPBクラシックスの中から､まさに「今」歌いたいレパートリーを選んだ自然体の1枚｡ ポップ･テイストを弁えたアレンジに導かれるアリ･バホーゾの名曲M1に始まり､トッキーニョ＆ヴィニシウスのM3は､ギター･メインの古き良きボサ･ノヴァの風情を醸し出す｡そして､ジャヴァンの代名詞的傑作「サムライ」(M5)は､スタイリッシュなR&Bタッチで飛翔するアクセント･トラック｡他にも､カルトーラ(M2)、ドリヴァル･カイーミ(M6)、ミルトン･ナシメント(M7)、シコ･ブアルキ(M8)、カルロス･リラ(M9)、ジョビン(M12)、そしてラストはイヴァン･リンスの名曲と､まるでMPBクラシックスの宝石箱のようなコンテンツ｡いずれも原曲のツボを心得たヴォーカル･ワークの素晴らしさで､70-80年代ブラジル音楽ファンなら間違いなく「惚れる」。M10で披露する唯一のオリジナル曲も極上｡バックは､ギタリストとして彼女を長くサポートしてきたレオ･アルヴァレスを中心にしたリズム＆ホーンのアコースティック･セッション｡ かのファットルーソ兄弟の一人､オスヴァルド･ファットルーソ(ds)の参加も肝｡
ヴィニシウス･ヂ･モラエス､トッキーニョ､マリア･クレウーザ､ナナ･カイーミなどが､アルゼンチンに渡り蒔いたボサ･ノヴァ/MPBの種が､時を経て美しきシンガーを産んだ...そんな流れを感じさせてくれる至福のアルバムとしてレコメンド｡新しいMPBクラシックスとして長く愛聴していただきたい｡