近年では世界的に再評価されるバッドフィンガー。しかし、その彼らの歴史はとても悲劇的なものでした。このバンドの前身となるアイヴィーズは、1964年、イギリス・南ウェールズにて結成されました。当初のメンバーは、ピート・ハム（Vo. G. P.）、デビッド・ジェンキンズ（G.）、ロン・グリフィス（B.）、マイク・ギボンズ（Dr.）でしたが、結婚などの理由からデビッドは脱退、後任として後にピートとともにバンドの中心メンバーとなるトム・エヴァンズが選ばれました。

1968年、それ以前にビートルズのロード・マネージャーを務めていたアップル・レコードの重役マル・エヴァンズは、アイヴィーズのデモ・テープを気に入り、契約を結ぶこととなりました。そしてめでたくデビュー・シングル メイビー・トゥモロー を同年11月にリリースしましたが、アメリカでは51位を記録するものの、イギリスではチャート・インすることが出来ず、不発であったようです。この結果、デビュー・アルバム メイビー・トゥモロー は、英米ではオクラ入り、日本・ドイツ・イタリアなど数ヵ国のみという変則リリースとなったため、後年世界中のコレクターが注目する盤となったそうです。

そして1970年、アップル側からの要求でバッドフィンガーと改名して再デビュー、ポール・マッカートニーの書いたシングル カム・アンド・ゲット・イット は、全英4位、全米6位というヒットを記録、周囲の期待に応えるものでした。しかしここでメンバー交代があり、ロンが脱退、ジョーイ・モランド（G.）が加入、トムはベースに変わりました。こうした中、再デビュー・アルバム マジック・クリスチャン・ミュージック がリリースされます。同年、アルバム ノー・ダイス を発表、彼らの代表作として掲げるひとも多い、大ヒットシングル 嵐の恋 ほか、ニルソンがカバーして全米第1位を獲得した　ウィズ・アウト・ユー　など佳曲がたくさん収録されています。

続いて1972年、アルバム ストレート・アップ を発表します。この作品は、“バングラディシュ・コンサート”へと共に出演をしたジョージ・ハリスンが当初プロデュースをかって出たものの、多忙の為、トッド・ラングレンがあとの仕事を任されたという、とてもゴージャスな布陣により製作されたもの。彼ら最大のシングル・ヒットを記録した　デイ・アフター・デイ　ほか、こちらも名曲揃いです。

さて、ここまでの経緯は、それほど大きな悲劇が訪れているようには見えないのですが、1973年リリースのアップル最後のアルバム アス 、1974年ワーナー移籍後の バッドフィンガー（涙の旅路） 、 ウィッシュ・ユー・ワー・ヒア（素敵な君）など、出すアルバムは全てセールス的に結果を出すことが出来ず、このあたりから彼らの厳しい冬の時代がやって来ることとなります。

1974年にリリースされたウィッシュ・ユー・ワー・ヒア（素敵な君）リリースの後、ジョーイ・モランドは脱退、残ったメンバーにより次作予定であった“Head First”のレコーディングが開始されるも、完成することはありませんでした。中心メンバーのピートが自宅ガレージで首を吊り、わずか27年の生涯を閉じてしまったのです・・・。

一度は解散したバッドフィンガーですが、トムとジョーイは、1979年 エアウェイズ（ガラスの恋人） にて復活します。やはり・・・と言っては何ですが、セールス的には成功とは程遠い結果に終わってしまいます。1981年にはラジオ・レコードから セイ・ノー・モア がリリースされますが、これが最後のアルバムとなってしまいます。そう、まだ悲劇は終わっていなかったのです。アルバム発表後、今度はトムが自ら命を絶ってしまいます。自宅で首を吊って・・・。

「ビートルズの弟分」と称され、アップル時代には名作と呼ぶべき作品たちを数多く残した彼らが、何故このように、まるで呪われているかのような悲しい結末を迎えなければならなかったのか・・・

ピートとトムの優れたソング・ライティング能力を失った後、とても長い時間が経ってから、彼らは再評価されることとなりました。皮肉ではありますが、この傾向は素直に喜びたいところです。

1999年3月、バッドフィンガーとしてジョーイは来日しています。