For People In Sorrow

企業や一般の人々からの寄付金をもとに、若い演奏家達の育成、サポートに励む非営利団体”エンジェル・シティ・アーツ”。Cryptogramophone レーベルもこの団体のパートナーとして、毎年イベント等をサポートしているそうです。本作は2011 年のエンジェル・シティ・ジャズ・フェスティバルにて行われた「ロスコー・ミッチェル・トリビュート・コンサート」。アート・アンサンブル・オブ・シカゴが1969 年に発表した、ロスコー・ミッチェル作曲の名作『ピープル・イン・ソロウ（邦題：苦悩の人々）』を、ドラマーのアレックス・クラインが再構築させました。

人種差別やベトナム戦争など、当時のアメリカが抱えていた様々な苦悩を投影させたアート・アンサンブル・オブ・シカゴの異色の名曲として、1969 年に発表された原曲は、当時ティーンエイジャーだったアレックス・クラインに大きな衝撃を与えました。アレックス同様、多くの日本の若者達や演奏家達に与えた影響も計り知れません。原曲のスピリッツはそのままに。しかし、あくまで”即興”が重視されなければならない作品でもあり、アレックスは、その辺りを上手く工夫して、この名曲を再構築させました。

ビルド・アン・アークへの参加でクラブ系のスピリチュアル・ジャズ・リスナーにも人気の高いベテラン・シンガー、ドワイト・トリブルによるポエトリー・リーディングで幕開け。この詩は、本プロジェクトのために書かれた作品。続いて演奏がスタート。AEOC の原曲同様、禅寺を思わせる静寂に満ちた鐘の音から徐々に各メンバー達が絡み合い、剛腕メンバー達による怒涛の即興リレーがスタートします。途中テーマを一旦挟み再び静寂に引き戻され、アレックスのドラムを合図に、G.E.スティンソンのノイジーなギター・ソロ、続いてドワイト・トリブルによる魂のヴォイス・パフォーマンスが登場。徐々にアフリカ的なリズムとなり、ここで最大のハイライト！大巨匠オリヴァー・レイクのソロ！ロスコー・ミッチェルと同年代の70 代！しかし、その演奏は全く衰えを知りません。1960 年代の熱きブラック・ジャズ・シーンが蘇るが如くのスピリチュアル・サウンドが展開されます。

そこへ、ベトナムの著名な禅僧、ティク・ナット・ハンの元で修業した尼僧Sister Dang Nghiemによる鐘と誦経（棺に蓋を閉じる時の儀式に奉げられるもの）がスクリーンに写され、再び静寂と癒しの世界へ。ステージ上の演奏と微かに交わり、荘厳な世界がしばらく展開されます。そんな静寂の世界から、若き弦楽器奏者達によるクラシック的なアプローチの演奏を挟み、ダン・クルーカスによるマイルス・ライクなコルネット・ソロを皮切りに、今度はハード・バップ的アプローチでまたもや大爆発！オリバーとドワイトによる爆音と絶唱のバトルも加わり、リーダーのアレックスもテンション・マックスのドラミングを披露！ラストにもう一度テーマ演奏のあと、再び安らかな鐘の音で静かに幕を閉じます。

原曲の長さを上回る1 時間以上のノン・ストップ演奏。しかし、聴き始めたら、まるで長さを感じない事でしょう。ロスコー始め、AEOC のメンバー全員に捧げたと言う本作。現代屈指の演奏家達による真摯なオマージュに溢れた美しくも激しいパフォーマンス。多くのフリー・ジャズ・ファンにとっての記念碑的作品となるかもしれません。(新譜インフォより)

Alex Cline (ds, perc) , Oliver Lake (sax, fl) , Vinny Golia (woodwinds) , Dan Clucas (cor, fl) , Dwight Trible (vo) , Jeff Gauthier (electric violin) , Maggie Parkins (cello) , Mark Dresser (b) , Myra Melford (p, harmonium) , Zeena Parkins (harp) , G.E. Stinson (eg)