インディーズでの活動5年、満を持してのメジャーデビュー。
多くのアーティストは記念すべき第1作はアップテンポのノリ曲を持ってくるであろう所を、ANCHEIN BETTyROSEは敢えてミディアムテンポのバラードで勝負をかけてきた。
作詞/ヴォーカルの「ありさ」さんは元々演劇畑でアーティスト活動を積み重ねてきた人物であり、そのパワフルなヴォーカルと深い歌詞の素養は紛れもなく演劇人として培われてきた本格的なもの。
これまでインディーズでの自主制作の楽曲にもその奥深い歌詞には定評があったが、この「Loop」で歌われる詩の世界は本当に重い。
彼女は昨年9月に、演劇メインで活動していた当時から、長年にわたって応援してきたファンの方の一人を病魔で亡くす、という悲しみを経験しており、間違いなくそんな実経験が歌詞に反映されていると思われる。そしてそれを乗り越えて力強く前進しようという、
♪全ては今繋がっていく あなたが消えた今日も未来も
胸の中にはあなたがいて だから私は歩いてゆける
♪やがて大きな木を宿し 私の道に何一つ
捨てるものはなかったと気付くの
恐れるものなど もうどこにもない
あなたがくれたこの未来を生きるよ
…といった凛とした強さの歌詞に否が応にも惹きつけられずにはいられない。
そしてこの曲の歌詞の「文字数の多さ」にも驚かされる。彼女はシンガーソングライター「篠原美也子」さんを深くリスペクトしている、というのはファンの間ではよく知られているが、一曲の歌詞のこの長さは篠原さんにも通ずるものを感じさせる。
そしてカップリングの「哀しみの少女」も素晴らしい。まず、曲が美しい。メロディ「だけ」の出来ならばもしかしたら「Loop」よりも上かもしれない。この曲はJ-POPではめったに使われない「三拍子」のスタイルを取っているという点でもかなり異端だ。
三拍子の曲を比較的多く輩出しているアーティストとして僕が知る限り、かつて「See-Saw」というユニットでヒット作を生み出し、現在は「Kalafina」というグループのプロデュースを担当している「梶浦由記」さんぐらいしか思いつかない。
作曲/ギター担当の「スーさん(鈴木悠介さん)」の音楽センスの高さをこの幻想的な曲の雰囲気からぜひ感じ取ってもらいたいものだ。
もちろん、ありささんの歌詞も極めて哲学的。タイトル曲の「Loop」を含めて、決して妥協することなく、納得できる仕上がりになるまでストイックに詩を追求するありささんのアーティスト魂を存分に味わうことができる。
そんなありささん・スーさんの2人のセンスが見事に合致した傑作。間違いなくすべての音楽ファンにおススメできる1枚だ。