現代ノルウェーの鬼才ネス
野蛮な印象主義を具体化したブラック・コメディ的アルバム
ヨン・オイヴィン・ネスは、今日のノルウェー音楽シーンでもっともユニークな音楽家のひとり。イギリスやアメリカのポピュラー・ミュージックとポップ・カルチャーに関心をもち、独自の着想による作品を発表してきました。
オスロを本拠とする現代音楽のグループ、アンサンブル・エルンストを共同創設した指揮者トマス・リームルとノルウェー放送管弦楽団の新しいアルバム『獰猛なケンタッキーの運命の母たち』。オスロ・フィルハーモニックが録音したヴァイオリン協奏曲『マッド・キャップ・トゥートリング』とチェロ協奏曲『ウェット・ブラバー・スープ』(PSC1278)、ノルウェー軍西部音楽隊(ベルゲン)によるクラリネット協奏曲『砂漠から届いた悪い知らせ』(ACD5053)とチェロ協奏曲『軌道に乗ったズヴェズドフカ』(ACD5063)につづき、ネスの協奏曲が3曲紹介されます。
2007年に完成したピアノ協奏曲は、ピアニストのロドガールとクリスチャンサン交響楽団の委嘱による作品です。メシアンを連想させる「にぎやかな」音楽でソロ・ピアノが登場し、3台の木琴やピッコロも絡み、雲間から突然現れる『強烈な日の光』のタイトルを映すように、明るく輝かしい響きの音楽が展開します。マグヌス・ロドガール[1979-]は、ノルウェー音楽アカデミーでシーグル・スロッテブレックにピアノ、オーレ・クリスチャン・ルードに指揮を学びました。ベルリンの芸術大学のルッツ・ケーラーにも指揮を教わり、現在、トロンハイムに近い故郷のメルフースの「フョスフェスティヴァル」の監督をはじめ、多彩な活動をしています。
『私の心をカトノサに埋めてくれ』は、電気的に音を増幅したギターと管弦楽のために作曲されました。アメリカ先住民と白人の戦争の象徴とされる「ウーンデッド・ニーの虐殺」に題材を採ったディー・ブラウンの著作「わが心をウーンデッド・ニーに埋めてくれ(わが魂を聖地に埋めよ)」とバフィ・セント=マリーの同名の歌に、オスロの北にある森を中心とする自然保護区のカトノサ湖の名を重ね、曲名としています。ギタリストのトマス・ヒェクスタ[1971-]は、オスロのアカデミーで学び、ラーシュ=エーリク・エル・ユングのヴァイオリンとのデュオ「ツイッター・マシン」としての活動で知られます。この作品は、ヒェクスタとノルウェー放送管弦楽団の委嘱により作曲されました。
2つのトロンボーンと2つのアンサンブルのための協奏曲はエンディングの異なるショート・バージョンとロング・バージョンの2つの版が作られています。ショート・バージョンが『獰猛なケンタッキーの母たち』、ロング・バージョンが『獰猛なケンタッキーの運命の母たち』と曲名も少し違っています。このアルバムのロング・バージョンは、クエンティン・タランティーノが脚本を書いたバンパイア・ホラー「フロム・ダスク・ティル・ドーン」、ギターとバンジョーが掛け合うブルーグラス「デュエリング・バンジョー」の場面で知られるジョン・ブアマン監督の「脱出」、そして、SFホラー・ビデオゲーム『DOOM 3(ドゥーム 3)』に影響を受けたと作曲者のネスは語っています。トロンボーンのスヴェッレ・リセはノルウェー放送管弦楽団、マリウス・ヘスビは王立ノルウェー海軍音楽隊のメンバー。2008年の初演のソリストです。(キングインターナショナル)
【収録情報】
ネス:
・ピアノ協奏曲『強烈な日の光(サンバースト)』 (2005-07)
・増幅したギターと管弦楽のための協奏曲『私の心をカトノサに埋めてくれ』 (2005)
・2つのトロンボーンと2つのアンサンブルのための協奏曲『獰猛なケンタッキーの運命の母たち』(ロング・バージョン) (2006)
マグヌス・ロドガール(ピアノ)
トマス・ヒェクスタ(ギター)
スヴェッレ・リス(トロンボーン)
マリウス・ヘスビ(トロンボーン)
ノルウェー放送管弦楽団
トマス・リームル(指揮)
録音時期:2011年3月10,14,15,21-23日
録音場所:オスロ、ノルウェー放送(NRK)大スタジオ
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
制作:ジェフ・マイルズ
録音:テリエ・ヘッレム