『中国の笛』、『エゴンとエミール』、他　ミュラー＝ホルンバッハ＆ムターレ・アンサンブル

エルンスト・トッホ：『中国の笛』
『大地の歌』の元ネタ詩集の中の詩に付曲！

マーラーの『大地の歌』によって一躍有名になった詩集『中国の笛』は、ハンス・ベートゲが、ハンス・ハイルマンによるドイツ語訳『中国叙情詩集』から選んだ詩を編みなおしたドイツ語詩集で、そのハイルマンの『中国叙情詩集』そのものも、フランス語や英語に訳された漢詩が元ネタになっているものもあるというものでした。
　さらに、ベートゲはそれらの漢詩の一部の「情景」を「人間」に置き換えるなどヨーロッパ的なわかりやすいドラマ性を持ち込んだりした結果、元来の包括的な陰陽二元論的世界は、西欧的でシンプルな二元論の世界へと読み替えられ、原詩の世界とは遠くかけ離れてしまった面もあるようです。
　もっとも、当時の欧州で流行をみせていたシノワズリーやジャポニズムといったオリエンタリズムそのものが、概して対象とした文化の表層のみを模倣し、それをヨーロッパ的な嗜好で換骨奪胎したうえで受容し、楽しんでいたものであったことを考えれば、そうした翻案や変更も、作品創造のいちプロセスに過ぎなかったのかもしれません。

　その『中国の笛』出版から14年後の1922年、詩集の中からテキストを選び、ソプラノ独唱と１４の楽器のための音楽に仕立てたのが、ウィーン生まれの作曲家エルンスト・トッホ[1887-1964]でした。
　トッホは若い頃には伝統的なスタイルを用いていましたが、次第に前衛的な様式も導入するようになり、ユダヤ系ということもあって、ヒトラーの時代に退廃音楽家の烙印を押されて作品が演奏禁止処分を受けてしまいます。そのため1933年にはパリに亡命、その後アメリカに移住してその地で生涯を終えた人物です。
　アメリカでは、クラシック作曲家としてだけでなく、映画音楽や教育の分野でも活躍しましたが、晩年、グラミー賞を受賞した際には「私は20世紀のもっとも世界から忘れられた作曲家」と語ったとされており、世界情勢に翻弄されて、本来生きるべき場所で活躍できなかった悔しさを滲ませていたともいいます。
　当アルバムに収録された4曲は、小規模なアンサンブルのために書かれたもので、『中国の笛』と『エゴンとエミール』の2曲は亡命前の声楽作品で、残りの2曲は最晩年の室内作品となっています。（ＨＭＶ）

【収録情報】
トッホ：
・14の独奏楽器とソプラノのための『中国の笛』 Op.29 [1922]
・管楽器と打楽器のための5つの小品 Op.83 [1959]
・コロラトゥーラ・ソプラノと語り、7つの管楽器のための家庭劇『エゴンとエミール』 Op.46（モルゲンシュテルン原作）[1928]
・オーボエ、クラリネット、ファゴットとヴィオラのための四重奏曲 Op.98 [1964]

　マリア・カルプ（ソプラノ：Op.29）
　ブリッタ・シュトレール（ソプラノ：Op.46）
　ムターレ・アンサンブル
　ゲルハルト・ミュラー＝ホルンバッハ（指揮）

　録音時期：1999-2007年
　録音方式：デジタル