1959年9月9日、パリ生まれ。ギタリスト兼歌手であった父親の影響により、5歳の頃からギターを弾き始め、14歳からスタジオ・ミュージシャンとして、そしてプロとして活躍し始めたのは17歳という若さ。以後ギタリスト、ベーシスト、シンガー、ドラマー、指揮者、プロデューサーとして多彩な才能を発揮。18歳の頃、フランスのロックバンドのベーシストとして活躍していた頃リュック・ベッソン監督と出会う。ベッソン監督が丁度デビュー作『最後の戦い』の撮影を控えていた、出会いから5年後、二人が再会し、ベッソン監督からセラに音楽を依頼する。のち、これまでに8作品のコラボレート作品がある。その間、ベッソン監督作品以外では1986年の『神風』(ベッソンが製作/脚本)、1995年にマーチン・キャンベル監督の『007ゴールデン・アイ』を手掛けている。映画監督と作曲家のコラボレートは、そう珍しくはありませんが、このエリック・セラほど、イコール・ベッソン監督を連想させる作曲家は近年では少ないでしょう。その理由として挙げられるのは、恐らく映画自体の完成度を抜きにして、ベッソン監督の意を汲み取り、それをセラが音楽によって完璧なまでのサポート、ならぬ演出をしているからでしょう。こういった監督=作曲家のコラボレートで知られているのは、ヒッチコック=バーナード・ハーマン、フェリーニ=ニーノ・ロータ、ジャック・ドュミ=ミッシェル・ルグラン、などで、その密接した信頼関係によって、互いに切磋琢磨し合い、それによって歴史に残る作品が製作されました。セラを含め、上記に挙げた素晴らしい作曲家らは、映画を製作するにあたっての音楽はどうあるべきかを、場面場面で考え、映像と密接した音楽をつける・・・、こういった職人芸的な作曲家がいてこそ、映画のヒットへ繋がるのではないかと思います。ベッソン監督の代表作『グラン・ブルー』や『ニキータ』、『レオン』などは、エリック・セラの音楽があってこそ、あれだけのヒットとなったのは言うまでもありません。 まえおきが長くなりましたが、エリック・セラの作品について触れてみたいと思います。 1983年、偶然がもたらした歴史的作品、ベッソン監督のデビュー作『最後の戦い』のサントラです。セリフなしで、映像と音楽で表現する、といった、当時24歳という若さだったベッソン監督のフレクシブルな発想が鮮烈だった映画です。この頃から『グラン・ブルー』を彷彿させる、幻想的な哀愁漂うシンセサイザーと、ブルージーにむせび泣くトランペットによってセラの世界が生み出されています。このアルバムでは、やはり「ALCOOL(アルコール)」とう曲を特筆しておきたいと思います 。 そして『最後の戦い』の翌年、1984年に製作された映画『サブウェイ』。このサントラはセザール小最優秀映画音楽賞にノミネート、さらにヴィックトワールの最優秀映画音楽賞を受賞したセラ出世作とも言える1枚です。またベッソン2作目にして、ユーモア溢れる発想の作風が、映画業界で話題となるきっかけにもなった作品です。ホームレス達とロック・コンサートを開く・・・といった設定に合わせ、洒落たロック・サウンドが全編で楽しめます。味のあるカントリー・テイストなポップスにシンセ、ギターを効かせた「IT'S ONLY MYSTERY」は、劇中でも印象的でした。今改めて聴いてみるとシンセサイザーが時代の背景を彩っていて、何とも興味深いものがあります。 そして『サブウェイ』から2年後の1986年に製作したのが、ファンがCD化を切望してやまない『神風(カミカゼ)』です。この映画はベッソンの助監督だったディディエ・グルッセが初めてメガホンをとったSFサイコ・スリラー映画ですが、製作、脚本はリュック・ベッソン。是非一度聴いて頂きたい名曲「PROCESSION IN THE SHAKUASHI TEMPLE」はメロディー、打ち込みドラム、シンセが効いている、セラお得意のサウンドを展開しています。これは乞うCD化であります。 そして、1988年ベッソン=エリック・セラが世界中に名を馳せるきっかけとなった名画『グラン・ブルー(グレート・ブルー)』を製作します。日本では、この映画によってジャン・レノがブレークしたことでもお馴染みの大ヒット映画。このスコアでセラはセザール賞とヴィクトワール賞の最優秀映画音楽賞を受賞しています。この映画には『グレート・ブルー』という英語タイトルとフランス語の『グラン・ブルー』の2タイトルが存在している為、日本公開時も困惑した方も多かったことでしょう。フランス版は『グレート・ブルー』でカットされた49分を追加しての公開されたもの。海を愛する純真な青年ジャックと、イタリア気質の陽気なダイバー、エンゾが深海100メートルのところまでフリー・ダイビング、ラストはジャックが海へと消える・・・。その映像の美しさと兼ねてセラの音楽は、やはり映画音楽史上、歴史に残る作品なのではと思います。イルカの声や海の中の響く音、登場人物の心情を捉えた音楽なしでは、これほどのヒットを生まなかったと言っても過言ではないでしょう。エリック・セラのアルバムを1枚も持っていない、という方には、まずこのアルバムをお勧めします。 グレート・ブルーの2年後に製作されたのがこの『ニキータ』です。『レオン』の前身とも言える、少女が主人公のアクション・ムーヴィーで、ベッソン好きにも人気のある作品です。ジャンヌ・モロー、ジャン=ユーグ・アングラードが共演していたのも特筆しておきたい点です。セラ特有の音作りで、スリリングな物語を味付けしてしています。サックスの音色が劇中でも印象的だった「THE FREE SIDE」、幻想的かつオリエンタルなコーラスが秀逸な「THE DARK SIDE OF TIME」、ロック、ジャズ、ヒーリング・・・とあらゆるジャンルを超越した音は、セラにしか生み出せないでしょう。セザール賞受賞。 そして『ニキータ』の翌年、立続けに『アトランティス』を製作。勿論監督はリュック・ベッソン。海への深い愛を映像で表現するといった『グランブルー』的作品。海と、海に生息する生物だけを映し出すといったベッソン入魂の一作。海の美しさと、エリック・セラの音楽が一体化、まるで海に潜ったら本当に聴こえてきそうな深く広い海中に響き渡るようです。控えめながらも、演出効果が最大限に発揮されているのには驚くほかありません。ヒーリング・ミュージックがここ近年話題を呼んでいますが、セラの『グラン・ブルー』とこの『アトランティス』が、その先駆けにもなったと言えるでしょう。「TIME TO GET YOUR LIVIN'」は必聴のナンバー。 『アトランティス』から3年後の94年、ベッソン監督がハリウッド進出を果たした記念すべき映画『レオン』を手掛けます。『スター・ウォーズ・エピソード1』に、クィーン・アミダラで出演したナタリー・ポートマンの初々しい少女姿が記憶に新しいかと思います。この映画でベッソン=セラの完全な一致を見せたといえるほど、映像と音楽がリンクします。映画自体は好みがあると思いますが、このアルバムは『グラン・ブルー』と並ぶセラの最高傑作中の1つでしょう。全編に漂う浮遊感と、民族音楽的要素とヒーリング・ミュージックに密接したセラ独特の音楽は、映像がなくとも充分に満足できます。ロリータ・ヴォイス好きには堪らないポートマンの声が何とも可愛らしい「HEY LITTLE ANGEL」、オープニングで印象的だった「NOON」他、聴きどころ満載です。 ピアーズ・ブロズナンが5代目ボンドとして初登場した007シリーズ17作目『ゴールデン・アイ』のスコアを手掛けます。リュック・ベッソン以外の監督作品を初めて手掛けた作品です。往年の007ファンからは、歓迎されがたい映画でしたが、音楽がエリック・セラということで、注目を沸かせるほど、セラは、この製作時には既に名声を手にしていました。これまでの007シリーズとは全く違うリニューアルされた映画でその転機にセラが抜擢されたようです。重厚なオーケストレーション、幻想的な雰囲気を醸し出すデジタル・サウンドと美しい旋律を融合、この仕事振りには感服せざるを得ません。ニュー’007’を大きく支えていると言って良いでしょう。このアルバムに収録されている「THE EXPERIENCE OF LOVE」で聴けるセラの歌声も最高です。 『レオン』の翌年に製作された『フィフス・エレメント』。スター・ウォーズの再来や、最新SFXを駆使した『マトリックス』の大ブレークぶりから、俄かにSF作がブームとなっていますが、何とベッソン監督、16歳の頃から温めていたという企画が実現したSF作品。この頃から少し低迷気味なベッソン監督でしたが、セラは相変わらず素晴らしい佳作を製作。神秘的存在に迫るストーリー、近未来的パノラマ、そしてゴルチェが担当した衣裳、など見所も満載の映画でしたが、ここでもセラの存在感が最も大きいのでは?放映当時CMでも流れた「ディーヴァー・ダンス」の完成度の高さは特筆しておきたいものがあります。またロックを基調とした「LITTLE LIGHT OF LOVE」や民族音楽的要素を取り入れた緊迫感ある「TIMECRASH」などベッソン監督作品云々、脈々とその才能を発揮しています。とにかく素晴らしい作品なので、お勧めです。 そしてこの『ディーヴァー・ダンス』は、異星人のオペラ歌手が歌う『フィフス・エレメント』の劇中のハイライト・ナンバーを収録した1枚。「映画の中では、このオペラ歌手は異星人だから人間には歌唱不可能な曲にしたかった」とは、エリック・セラの弁です。 これまでの作品について軽く触れてみました。ロック、ジャズ、民族音楽、ヒーリングなど、あらゆる音楽的要素を取り入れ、また、神秘的な世界を織り成すデジタル・サウンドを駆使した耽美なまでの音楽・・・、脈々と才能を発揮するエリック・セラは、これからも目が話せません。 リュック・ベッソン監督=エリック・セラの最新作サントラ『ジャンヌ・ダルク』。映画もダスティン・ホフマン、フェイ・ダナウェイ、ジョン・マルコヴィッチと出演陣もとにかく豪華。サントラも期待通り素晴らしい出来です。正統派を意識してか重厚なスコアを展開、またNOAが歌う主題歌の「マイ・ハート・コーリング」も収録される予定、ととにかく話題となること必至です。邦題:『ジャンヌ・ダルク』。日本公開は99年12月11日 『フィフス・エレメント』以前の作品の中から厳選された曲のみを収録したエリック・セラ初のベスト盤。現在のところ、このアルバムでしか聴けない、映画『カミカゼ』からの曲も収録されているお勧めの1枚です。